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2010年03月13日

『ひとりぼっちの王様とサイドスローのお姫様』

若草野球部狂想曲』がメディアワークス・電撃文庫から刊行されて10年。メディアワークス文庫から本格青春野球小説が登場です。

本屋で見つけて即買い。
正統派のスポーツ小説を出せるのはさすがメディアワークス文庫。電撃文庫だと選手をロリキャラにしたり監督をメイドにしたりしないとスポーツ小説出せないからね、恐ろしい事に。
その分、ラノベっぽさは薄く、挿絵も無し。あまりキャラクターの容姿の描写が無かったので挿絵は欲しかった気がする。ラノベっぽさを減らすのがメディアワークス文庫の方針なんだろうけど。

川崎巧也と本田綾音、ふたりのサウスポーが主人公。
三年ぶりに日本に帰国した綾音は、幼馴染の巧也と一緒に甲子園に行くという約束を果たすために巧也と同じ高校に進学する。
綾音がいない間に巧也は超中学生級の選手へと成長していた。
巧也と再会した綾音だったが、巧也は「野球を捨てた」と言い、入学した学校には部員の足りない弱小野球部しか存在しなかった。
綾音は巧也に野球をやらせるべく猛アタックを開始するが…。

本格青春野球小説と評した通り、濃密な野球描写がウリ。野球描写の濃さでは『若草野球部狂想曲』にも負けていない。
野球に挫折した巧也が綾音によって立ち直るというストーリーはベタっちゃあベタだけど、それが良い。
濃い野球描写が魅力ではあるのだけど、その分描写が冗長になっている感はある。野球を知っている読者には言わずもがなだし、知らない読者に対してそこまで説明する必要は無いんじゃなかろうか。作者の野球と読者に対する誠意が感じられて私は好印象だったけれど。

野球を捨てた男子が女子(選手)によって野球に復帰すると言うと先日第1巻が刊行された『D×H』がそうですな。
他には『わいるど☆ぴっち』や『ドキドキプリティリーグ Lovely Star』なんかもあります。『若草野球部狂想曲』も近いか。まあ、野球に限らずスポーツものでは良くある展開ではある。

綾音と巧也が再会し、巧也が野球に復帰するまでの前半と、綾音と巧也が野球部が弱小野球部を率いて強豪校との試合に挑む後半の、大きく分けて2部構成になっている。
前半は青春>野球、後半は野球>青春といった感じ。500ページ超とページは多いけどすんなり読める。すっきりまとまっているとは思うけど、後半の野球部が徐々にまとまり、強くなっていく過程はもっとじっくり読みたかった気がする。
野球部が強くなる過程が描かれなかったため、結局、山葉のチート能力に頼らざるを得なかったのがご都合主義的な印象を与えてしまっているのが残念。

高校野球に女子の参加が認められている設定。といっても、150kmの速球や魔球を投げる女子選手がいるわけでもなく、現実に即したリアルな野球描写になっている。
綾音も女子の日本代表候補に選ばれるほどの投手だけど、せいぜい球速は100km/hほどと現実の女子選手と変わらない身体能力でしかない。
リアルな女性選手の能力で、いかに男子相手に通用させるかというのが作者の腕の見せ所だけど、この辺は実際に読んで確認してほしい。

綾音と巧也、二人の主人公がサウスポーなのも大きなポイント。
強豪校との試合を描いた第7章の章題自体が“サウスポー”だったりするのだけど、二人がサウスポーであることが二人の絆になっている事、またクライマックスシーンを決定づける重要な要素になっている事は見逃せない。
…余談だけど、女子野球ものにおけるサウスポーについての文章を数年来書かねばと思いつつ実行できてません。寝かしておくほどのネタじゃ無いのでいい加減書かねばだなあ。

体育会系ならではの陰湿ないじめやスター選手への嫉妬、部活内の派閥争い、軟式出身者と公式出身者の確執など、暗い人間関係の描写も結構多いのも特徴。
その辺は作品として必要な部分なのでいいと思うんだけど、顧問の前田好子の性格のイタさはどうにかならんかったのかと思う。
えーと、例えるなら『とらドラ!』の亜美ちゃんと恋ヶ窪先生(30)のダメな所を掛け合わせたみたいな…。なんでこんなラノベ臭の濃いイタいキャラにしたのか疑問。最初は好子がでてくるだけで苦痛でした。

少年と少女の絆を描いた、正統派の青春野球小説かと思います。
爽やかな読後感が心地良い良作なので、是非一読をお勧めします。

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