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2006年05月24日

もうひとつのロト英雄伝説

最近更新が滞りがちでしたが(いつものこと? そうですね)、更新もせずに何をしていたかというと、なぜか突発的に『ドラクエ』がしたくなって『II』と『III』を平行してやってました。ちなみにSFC版ね。
シドーとゾーマを倒して、SFC版『III』の隠しボス・しんりゅうもようやく倒したのでとりあえず一段落かな。
過去に『II』『III』ともにFC、SFCでクリアしてるのだけど、SFC版よりFC版の方がちゃんと覚えてるんだよね。特にSFC版『III』のことなんてさっぱり覚えていなかった。「性格? 盗賊? すごろく場? 小さなメダル? そんなんあったっけ?」って感じ。プレイしたのは一番最近(といってももう10年近く前)なんだが。

『ドラクエ』の最高傑作は『III』、という意見には私も同意する(といっても『VI』以降の作品はやってないけど)のだが、個人的に好きなのは『II』だったりする。
そしてそんな私の『II』好きの大きな要素を占めているのがゲームブック版『II』だ。
……ここで「ギラギラギラギラギラリンコ?」とか思った人、違います、そっちじゃありません。双葉社版の後に出たエニックスオリジナル版のゲームブックです。

『III』のゲームブックのヒットとエニックスが書籍出版に力を入れ始めたことによって制作されたこのゲームブックなのだが、これが熱い!
ストーリー自体はゲームの大筋を勿論踏襲しているのだけど、多くのオリジナル要素を加えることによってゲームブック独自のドラクエ世界を生み出すことに成功している。

まず国家の描写が詳しい。『II』の物語はハーゴン軍による侵略戦争であるわけだが、ゲームにおいてはそういう描写はゲーム本編ではあまり見られない(当時のFCのスペックでは仕方ないのだが)。
しかしこのゲームブックでは、ローレシア、サマルトリアともにハーゴン軍討伐のために挙兵するし、ムーンブルクを滅ぼしたハーゴン軍もサマルトリアに侵攻してくる。
特に、ローレシア・サマルトリア連合軍とハーゴン軍によるサマルトリア城攻防戦はこのゲームブックのオリジナルシーンの中でも屈指の盛り上がりを見せる。
また、連合軍の内部でローレシア軍とサマルトリア軍の間に軋轢があったり、ローレシアとデルコンダルが敵対関係にあるなど、国家同士の関係が描かれているのも興味深い。

『III』の発売以降につくられたので『III』で登場したモンスターや呪文も登場し、ロト伝説の設定をより物語に組み込んでいるのもポイント。
例えばロトの剣について。ローレシアの王子が旅立つ時、ローレシアの大司教から王者の剣を受け取るのだが、これが錆びてボロボロで銅の剣より弱いという全く使えない武器。
旅を重ねてアレフガルドに辿り着くとこれがロトの剣だということがわかり、マイラの村にいる刀鍛冶(もちろん『III』で王者の剣を鍛えたジパングの刀鍛冶の子孫だ)によってロトの剣は元の輝きを取り戻すという読者が思わずニヤリとしてしまうイベントが起こる。
ゲームにおいてロトの剣はそれほど強力な武器ではない。光の剣や稲妻の剣よりも攻撃力が劣るので当時寂しい思いをした人も多いと思う。このゲームブックでもそれは同様なのだが、このゲームブックにおいてはシドーとの最終決戦、ロトの剣と鎧、盾、兜に秘められた力が解放され最強の武具となるという燃える展開が待っている。こういうファンの心理を突く演出が上手いんだよね。

また、ゲームの裏技が再現されているのもすごいところ。有名な“はかぶさの剣”をつくることもできる(条件は非常に厳しいが)し、デルコンダルバグ(全滅後、デルコンダル城にシドーが出現するバグ)まで再現されている。

しかし、何よりこのゲームブックが魅力的なのはキャラクターだろう。サマルトリアの王女ティアなどゲームに登場するキャラクターはもちろんのこと、ムーンペタの大賢者アルファズルやローレシアの騎士団長サイラス、ガライの街の盲目の少女リーナ、さすらいのバブルスライムハンター・オーウェンなど個性的なキャラクターが数多く登場する。
中でも竜王のひ孫は非常に重要な役回りで、彼によってハーゴンがなぜ邪神の大神官となったのかが語られる。また上巻の山場である大灯台の決戦、そしてハーゴンとの最終決戦でも大活躍を見せる。

しかし、このゲームブックで一番魅力的なキャラクターといえばサマルトリアの王子カインだろう。
サマルトリアの王子といえば「のんきもの」「いやあさがしましたよ」「最強武器は鉄の槍」「ホイミ王子」「鼻が無い」など、ほとんどヤムチャみたいな存在として認識している人が大半だと思うが、このゲームブックのサマルトリア王子は一味違う。
皮肉屋で口が悪いという時点でもうサマルトリアの王子のイメージではないが、何より本当に頼りになる男なのである。
剣の腕は立つが朴訥でお人よしなローレシアの王子と違い頭は切れるし、魔力は高いが世間知らずなムーンブルクの王女ナナに比べて俗世の事情にも精通し魔術の知識も豊富と、パーティには必要不可欠な存在となっている。
また、口が悪いが不思議と人望は厚かったり、自分がロトの血を引いていない(!)ことにコンプレックスを抱いていたりと、人間的にも非常に魅力的。ムーンブルクの王女ナナに好意を抱いているのにそれを表に出せないでからかってばかりいるところも可愛い。それなんてツンデレ。

久しぶりに押入れから引っ張り出して読み返してみたけど、やっぱりおもしろかった。
奥付を見てビックリ。著者がFEAR(元。現在はフリー)の健部伸明さんじゃないか。確かに言われてみるとTRPG的だなあ。当時はそんなこと全く意識せずにT&Tのシナリオのネタに使ったりしてたけど。

なお、このエニックス版ゲームブックについては↓のサイトで詳しく解説されています。詳しいキャラクター解説や印象的な呪文の詠唱なども記載されているので是非どうぞ。
偉大なるゲームブックドラゴンクエストII夢織時代への扉
また、著者の健部伸明さんの公式サイトにおいてもこのゲームブックについて触れられています。
健部伸明 Web Site

発売は89年。もはや古本屋かヤフオクでないと入手できないだろうと思うけど、興味のある人は“もうひとつのロト英雄伝説”に是非触れてみてほしい。

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