2013年09月18日

『天使轟臨』 シャイニー日向 リアクション06 Part2

 (『天使轟臨』 シャイニー日向 リアクション06 Part1

それぞれの年の瀬 〈シャイニー日向〉編

ルチャ・フィエスタ・メヒカナ(1)

<第1試合:4ウェイマッチ 20分一本勝負>

 〈アポロン高崎〉(?)
 VS
 〈高橋 加奈子〉(東京女子プロレス)
 VS
 〈上原 凪〉(WARS)
 VS
 〈ブレイヴ・レイ〉(激闘龍)

四者四様、睨み合う。

(っ、思った以上に、やり辛い……っ)

われらがアポロン高崎、マスクの下で顔をしかめる。
視界は広めのマスクであるが、それでも違和感はぬぐえない。
そのうえ、不慣れな4WAY戦、それも馴染みのない連中との対戦ときている。
高橋や凪とはTCGやEXTASで顔は合わせたが、手合わせはしていない。
ブレイヴ・レイにいたっては初見である。

もとより、日向にとってこの大会への参戦は、

――今日子さんに、自分のファイトを見せたい。

と、いう思いのみであり、勝ち負けは問題ではない。
最近になってようやく意識を取り戻したブレード上原だが、いまだ復帰は遠いという。

だからといって、ふがいない闘いをする気はさらさらなかった。
いちおう、正体不明のマスクウーマンとなっているとはいえ。

「――正々堂々とやりましょう」
「……っ?」

レイが、覆面のよしみで(?)日向に握手を求めてくる。

これに応じた日向だったが、

「……っ!?」

不意打ちのエルボースマッシュを食らう。
たまらず倒れた日向に、レイと高橋がストンピング。
この小ずるいテクに怒った凪が日向を救出。
おのずと、日向・凪がリンピオ(善玉)、レイ・高橋がルード(悪役)的なポジションにおさまる。
かくして高橋と「新旧激闘龍同盟」を組んだレイ、派手な空中殺法で観客から歓声を引き出す。
日向も負けじと食い下がるが、マスクの違和感はぬぐえず、4WAY戦への不慣れさから決定打に欠いた。
つまるところ……
最後は同盟決裂からのウラカン・ラナでレイが高橋を沈め、勝利をもぎ取ったのである。

 ×高橋 VS レイ○
 (11分9秒:ウラカン・ラナ)

「……っ、ハァ、ハァ……ッ」

不完全燃焼に終わった日向であったが、これも経験のうち、といえようか。
もっとも。
この試合は、文字通りの「前座」の一つでしかなかったのだ……

興行はつつがなく進み、メインイベント――

ルチャ・フィエスタ・メヒカナ(2)

J1K軍12人に対し、太平洋勢わずか6人。
数の上では絶対的に不利な状況。
だが、彼女たちは――孤独ではなかった。

「っ、これは……」

バックステージのモニターでこの様子を見ていた日向は、思わぬ成り行きに困惑していた。
こんな展開が待っているとは予想だにしていなかったのだが、それも当然であろう。
堀とは旧知だし、イレス神威とも手を合わせたことはある。
上原の興した太平洋女子の存亡の危機、日向とて微力ながらに一肌脱ぎたいところであったが、

(……っ、でも……)

いくらマスクを被っているとはいえ、新女の一員である自分が、こういった闘いにかかわるのは、問題ではあるまいか?

(…………っ)

人数の上で劣勢に立たされていた太平洋女子軍であったが、次々と助っ人が名乗りを上げた。

「……上原さんは私の目標。微々たる力でも、ないよりは!」

太平洋女子から分裂した激闘龍所属のマスクウーマン、〈ブレイヴ・レイ〉。

「今日子ねぇねぇの団体を、潰させるもんかっ!」

上原の従妹、WARSの〈上原 凪〉。

「――ウエハラと再び闘う舞台は、太平洋女子のリングをおいて他にはない」

AACの《ジョーカー・レディ》。

「友がすべてを懸けて闘うのなら、四の五の言わずに手を貸すのみ!」

同じくAAC、《ミレーヌ・シウパ》。

「――今日子に、いいところを見せておかないとね」

上原の無二の盟友にして、“リングの女王”《パンサー理沙子》――

……そして。

「今日子さ…ブレード上原とは昔馴染み。及ばずながら助太刀します!」

謎の覆面ファイター、〈アポロン高崎〉。

かくして、団体の垣根を越えた“鳥人血盟軍”とでも称すべきチームが結成されたのである。

「意外だったわ。いいのかしら? 会社に迷惑がかかっても」
「っ、な、何のことでしょう……っ」

理沙子にささやかれても、知らぬ存ぜぬのテイ。

<太平洋女子プロレス・負けたら即消滅マッチ>

【ジャッジメント・サウザンド】

《寿 千歌》
《ライラ神威》
《氷室 紫月》
《マスクド・ミステリィ》
《ジャイアント・カムイ》
《ナイトメア神威》
《サタン神威》
《スパイダー神威》
〈アトラス・カムイ〉
《栗浜 亜魅》
《ダークフレイム真田》
《ブラックペガサス》

VS

【鳥人血盟軍】

《パンサー理沙子》
〈アポロン高崎〉
〈上原 凪〉
〈ブレイヴ・レイ〉
《ジョーカー・レディ》
《ミレーヌ・シウパ》
《大高 はるみ》
《テディキャット堀》
《アルコ・イリス》
《優香》
《橘 みずき》
〈イレス神威〉

協議の末、試合形式はイリミネーション式4人タッグ戦と決まった。
すなわち、フォールかタップで敗れた選手が脱落し、残りのメンバーと交代していく。
最後の一人が敗れた時点で、決着というわけである。

「――お膳立てはしたけれど」

パンサー理沙子は、太平洋女子残党たちに告げる。

「この後のことは、すべて、リングの上で決まるわ」
「……心得ています」

うなずくイレス神威。
舞台は整った。
後は、白黒つけるのみだ。
彼女が踏み出そうとするや、

「おっと、イレスちゃんの出番はまだまだ」
「……っ?」

橘や優香たちに止められた。

「あっちの大将と闘いたいんでしょう? だったら……」

今はまだ、動くときではない。

「任せて。私たちが、あの覆面、引きずり出してあげる!」
「ううっ……な、何だか、悪寒が止まらないけど……やるっきゃないね!」
「……っ、皆さん……」

かくして、太平洋女子の命運を懸けた一戦の火蓋が切って落とされたのである――

<1>

 《ブラックペガサス》
 &
 《ダークフレイム真田》

 VS

 《橘 みずき》
 &
 《優香》

「藤原さんっ……闇に飲まれた貴方の正義、私の正義で浄化してみせる!」
「黙れ――力なき正義こそが悪! 正義とは、力そのものに他ならない――」

橘と、藤原和美こと暗黒天馬聖戦士が火花を散らし、

「うおおおーーっ!! 闇の炎ですべてを焼き尽くしてやるッス!! バーニング・ラブッ!!」
「な、なんか悪いアレが憑いてるよこの人~~っ」

優香は、闇炎使いと対峙する。

初戦は優香が上原直伝のミサイルキックでペガサスから3カウント。

 ×ペガサス VS 優香○
 (7分:ミサイルキック)

<2>J:11人/鳥:12人

《ジャイアント・カムイ》
《ダークフレイム真田》

 VS

《橘 みずき》
《優香》

*Bペガサスに代わって登場は、2メートル近くの巨体をほこる危険な大巨人・Gカムイ。
 しかしここでは橘と優香のコンビネーションが上回り、真田を沈めて幸先良く2連勝となった。

 ×真田 VS 橘○
 (11分:フライングニールキック)

<3>J:10人/鳥:12人

《ジャイアント・カムイ》
〈アトラス・カムイ〉

VS

《橘 みずき》
《優香》

*真田退場で登場したのは、Gカムイの妹・Aカムイ。
 姉妹のパワーで圧倒し、橘をたちどころに粉砕。

 ○Gカムイ VS 橘×
 (13分:超高層ボディスラム)

<4>J:10人/鳥:11人

《ジャイアント・カムイ》
〈アトラス・カムイ〉

VS

〈ブレイヴ・レイ〉
《優香》

*橘に代わって登場は激闘龍の新鋭・Bレイ。
 意気軒昂で突貫したレイであったが、Gカムイの圧力に何もさせて貰えない。
 サッカーボールキック一発でグロッギー状態に陥り、かろうじてタッチした優香にタッチ。
 その後は優香がなぶり殺しにされ、最後はギロチンフィールで処刑台の露と消えるのを見殺しにするしかなかった。

 ○Gカムイ VS 優香×
 (16分:ギロチンフォール)

「……っ」

血まみれになって担架で運ばれる優香を横目に、日向の出番が回ってきた。

「無理はしない方がいいんじゃない?」
「っ、そんなこと……!」

理沙子の言葉を振り切り、リングへ向かう。

<5>J:10人/鳥:10人

《ジャイアント・カムイ》
〈アトラス・カムイ〉

VS

〈ブレイヴ・レイ〉
〈アポロン高崎〉

「高崎さん……っ、やってやりましょう!」
「も、もちろん……っ」

と士気は高い2人だが、Gカムイの圧力を押し返せるほどの力はない。

「…破壊…シ尽クス…ッッ!!」
「……っ!!」

Gカムイのダブルラリアットで、2人まとめてぶっ飛ばされ、レイはあえなく3カウント。
もはやプロレスの体をなしていない、それは一方的な闘いであった。

 ○Gカムイ VS レイ×
 (20分:ラリアット)

<6>J:10人/鳥:9人

《ジャイアント・カムイ》
〈アトラス・カムイ〉

VS

〈上原 凪〉
〈アポロン高崎〉

「ゲホッ、ゴホッ…」
「~~っ、好きにさせるもんかーーっ!」

日向がラリアットのダメージから立ち直れない間に、凪もあっさり叩き潰される。
まさにブレーキの壊れた重戦車、止めようがない。

 ○Gカムイ VS 凪×
 (24分:デスバレーボム)

<7>J:10人/鳥:8人

《ジャイアント・カムイ》
〈アトラス・カムイ〉

VS

《大高 はるみ》
〈アポロン高崎〉

辛うじて戦線復帰した日向であったが、

「偽の、新人王っ…ぶち壊れちゃえ…っ!!」
「~~~~~~っ!?」

日向には連敗しているアトラス(大空ひだり)、激しい当たりで追い込む。
アトラスのサポートもまじえた合体パワーボムで、一本も取れぬまま、リング上に撃沈――

 ○Gカムイ VS 高崎×
 (26分:ダブルパワーボム)

その後の展開は、記憶が定かでない。
気がつくと控え室に寝かされていて、モニターには、凄惨な光景が映し出されていた。

「ぐ……ぁ……」
「ヒャーーーッハッハッハッ! 他愛ねぇなぁ。えぇ?」

リング上は、血みどろの修羅場と化していた。
返り血に染まって哄笑しているのは、《ライラ神威》。
マスクを引き裂かれ、血の海に沈んでいるのは〈イレス神威〉。
その腕は異様な角度に折れ曲がっており、もはや闘える状態でないのは明白であった。

「これが、我々【ジャッジメント・サウザンド】に逆らった者の惨めな末路ですわ――」

呵呵大笑し、戦闘不能のイレスを足蹴にする寿千歌。
その凄惨な光景に、会場のファンは声もない……

そこで、太平洋女子の解散を宣言せんとする千歌。

が、そこに疾風のごとくリングインした集団が、千歌をボコボコにした。

『弱い者いじめで偉そうにしないことね――』

マイクで主張したのは、【柳生衆】の下っ端ヒール、〈MOMOKA〉。

『あなたたちの相手は、わたしたち【スーパー柳生衆】よ!!』

かくして年の瀬の番外戦は、乱入によってウヤムヤなままに終わったのである。

 ▲ライラ VS イレス▲
 (1時間22分:ノーコンテスト)

とどのつまり。
太平洋女子の解散は棚上げとなった……が、あれほどの惨敗を喫しては、もはや再起は不可能であろう。
堀たちの行く末は日向にとっても気になるところであったが、

――心配しなくて大丈夫よ。

という理沙子の言葉を、信じるしかなかった。
日向自身、それどころではなかったというのもある。
何せ、わずか4日後には、ドーム大会が控えているのだから。

新日本女子プロレス 1・4新日本ドーム大会 ~Labyrinth of Judgment~

「ヒナタ、Enjoy Wrestling!!」
「い、イエーース……」

コリィと日向が入場するや、大きな歓声が上がった。
<EXトライエンジェル・サバイバー>では十六夜を破るなどの結果を出した日向に、オーディエンスも期待していたとみえる。
しかし、コリィがいかにジュニアの強豪とはいえ、一度手を合わせただけのルーキーがパートナーでは、ベルト奪取は難易度が高すぎた。
大晦日のダメージも残る日向は精彩を欠き、技の失敗、カット遅れ、長らくリング外でゴロゴロと休んでいるだけ、やっと交代したと思ったら見せ場もないままギブアップ……
といった具合で、またもドーム中からのブーイングを浴びる羽目になったのである。

 ○ミステリィ VS 日向×
 (13分39秒:ドラゴンスリーパー)

――“へなたん”卒業かと思ったけど、やっぱりへなたんはへなたんだな。
――新人王なんか貰って、調子に乗ってんじゃねーの?
――親父を見習えってんだ。

興行後、水道橋近辺の居酒屋でそんな会話が交わされたことは想像に難くない。

そう、父親といえば。
大晦日でチャンピオン相手に初の異種格闘技戦に挑んだオリオン高崎は、大流血に見舞われるも不屈の精神で闘い抜き、ついに時間切れ引き分けに持ち込んでいた。
その諦めない気持ちの強さと全力ファイトに、プロレスファンはもとより格闘技ファンからも大きな評価を受けていたのである。
それだけになおさら、娘のふがいなさが際立った……というのは、いささか酷であろうけれど。

新年早々赤っ恥をかかされた日向であったが、落ち込んでいる暇もなく、気が重いイベントが待っていた。

▼日本 東京都千代田区 『ホテル・ニューイチガヤ』飛龍の間

この日、昨年度のプロレス大賞の受賞式が華やかに開催された。
なお、今年の各賞受賞者は以下の如し――

・最優秀選手賞(MVP):

 《マイティ祐希子》(新日本女子プロレス)

・最優秀試合賞(ベストバウト):

 《サンダー龍子》(WARS)
 VS
 《フレイア鏡》(フリー=当時)

 (WARS福岡大会:龍子(31分45秒:両者ノックダウン)鏡)

・最優秀タッグ賞:

“災凶タッグプラスワン”
 《ビューティ市ヶ谷》(JWI)
 《十六夜 美響》(VT-X)
 〈紫乃宮 こころ〉(JWI)

・殊勲賞:

 《南 利美》(ジャッジメント・サウザンド)

・敢闘賞:

 《ソニックキャット》(東京女子プロレス)

・技能賞:

 《内田 希》(ジャッジメント・サウザンド)

・新人賞:

 〈シャイニー日向〉(新日本女子プロレス)

(……っ、場違いにも、程がある……)

大物ぞろいの中にあって、何でアンタがいるの? と皆から思われているような、針のムシロ状態。
辛うじて同程度のキャリアの選手として紫乃宮がいるが、あちらはEXTAS制覇という明確な結果を出しているので、また違うであろう。

「ろくに試合にも出ていない半病人がMVPとは、どういうことですのっ?」
「頑丈なのだけが取りえの誰かさんとは違うのよね~」
「何ですって――」

市ヶ谷と祐希子は一触即発、

「やれやれ。バカが2人そろうと、やっかいそのものだな」
「その点は同感ね。あぁでも、バカは3人でしょう? 貴方もふくめて」
「ほお……?」

龍子と南が視殺戦を展開したり。

かくのごとく対立関係にある面々も少なくない緊迫した会場であったが、ひとまず無難に進行、最後の集合写真撮影も終え、さてこれにてお開き――という段になって。
それは、起こった。

「!」

突然、照明が落ちる。
ほんの数秒で明かりは戻ったが、

「あっ!」

誰もが、目を剥いた。
見知らぬ派手な女が、日向を痛めつけていたのだ。

「何の結果も出してないくせに、新人王? ちゃんちゃらおかしいなァ――」

と冷笑したこの乱入者は、日向の顔面に黒い毒霧をぶちまけて悶絶させるや、

「うちの名はΣリア! 通りすがりの美人レスラーや! あんたらの首も、いずれ頂戴いたしますんで、よろしゅうに――」

呵呵大笑するや、風を食らって撤収するΣリア。

「あははっ、面白いな~、あの子!」
「さ、さすがクイーン・サドンデス! びっくりさせられたお~」

と大ウケだったのは祐希子とソニックで、

「やれやれ、品がありませんわね。まるでどこかの誰かのよう」
「うふふ。楽しそうな子ね」

と鼻で笑ったのは市ヶ谷であり、微笑したのは十六夜である。

「アレが例の“クイーン”か。少しは骨がありそうだ」
「フフ。そうでしょう?」

これは、龍子と鏡の言。

「おやおや。海外でおとなしくしていれば、五体無事でいられたのにね」
「……気の毒に」

そんな物騒なことをつぶやいたのは、南と内田。

「麗華さまより目立つなんて……許せません!」

と怒りを露にしたのはこころで、

「あの……女っ!」

怒りを剥き出しにしたのは、被害者の日向であった。

この一件を受けて。
さっそく、リアと日向の試合が組まれることになった。
その舞台は、【Panther Gym】の後楽園大会。

「……PGって、新女とは別団体なんですよね?」
「フフッ、もちろんそうよ」

日向の疑いのまなざしを、にっこり微笑んでかわす理沙子。
そのわりには、ズブズブのように思えるのは気のせいだろうか。

日本 東京都文京区 後楽園プラザ

<(0)15分一本勝負>

 〈アークデーモン〉(ジャッジメント・サウザンド)
 VS
 《木村 華鳥》(新日本女子プロレス)

*新女のルーキー木村が曲者と対決。

<(1)15分一本勝負>

 《ハルク本郷》(Panther Gym)
 VS
 〈ブラッディ・マリー〉(プロレスリング・ネオ)

*デビュー戦の本郷に不覚を取ったBマリーの雪辱戦。

<(2)30分一本勝負>

 《奥村 美里》(Panther Gym)
 &
 《小松 香奈子》(Panther Gym)

 VS

 《YUKI》(フリー)
 &
 〈フランケン鏑木〉(新日本女子プロレス)

*PGコンビが新・天使軍コンビと対決。

<(3)30分一本勝負>

 《後野 まつり》(Panther Gym)
 &
 《庄司 由美》(Panther Gym)

 VS

 《ウィッチ美沙》(新日本女子プロレス)
 &
 《小縞 聡美》(新日本女子プロレス)

*PGコンビが新・天使軍コンビと対決。

<(4)30分一本勝負>

 《成瀬 唯》(ジャッジメント・サウザンド)
 &
 《ジャイアント・カムイ》(ジャッジメント・サウザンド)
 &
 《神田 幸子》(ジャッジメント・サウザンド)
 &
 〈アトラス・カムイ〉(ジャッジメント・サウザンド)

 VS

 《テディキャット堀》(フリー)
 &
 《アルコ・イリス》(フリー)
 &
 《優香》(フリー)
 &
 《橘 みずき》(フリー)

*太平洋女子の残党がJ1Kに挑戦する。

<(5)休憩明け 30分一本勝負>

 《沢登 真美》(Panther Gym)
 &
 〈シャイニー日向〉(新日本女子プロレス)

 VS

 《村上 千春》(Panther Gym)
 &
 〈Σリア〉(フリー)

*関西でマニアックな人気をはくしていた、元・ワールド女子のΣなにがしがPantherGym初参戦。
 メジャーのリングで存在感を示せるか?

<(6)セミ前 45分一本勝負>

 《マスクド・ミステリィ》(ジャッジメント・サウザンド)
 &
 《斉藤 彰子》(ジャッジメント・サウザンド)

 VS

 《森嶋 亜里沙》(プロレスリング・ネオ)
 &
 《ドルフィン早瀬》(プロレスリング・ネオ)

*ネオコンビがJ1Kの刺客と対峙する。

<(7)セミファイナル 45分一本勝負>

 《神楽 紫苑》(ジャッジメント・サウザンド)
 &
 《氷室 紫月》(ジャッジメント・サウザンド)

 VS

 《大高 はるみ》(フリー)
 &
 《ジャニス・クレア》(GWA)

*J1Kの個性派チームが友情タッグと対決。

<(8)メインイベント 60分一本勝負>

 《パンサー理沙子》(Panther Gym)
 &
 《武藤 めぐみ》(NJWP-USA)

 VS

 《ヴァルキリー千種》(ジャッジメント・サウザンド)
 &
 《越後 しのぶ》(ジャッジメント・サウザンド)

*決別した武藤と結城がPGリング上で激突。

<(5)休憩明け 30分一本勝負>

 《沢登 真美》(Panther Gym)
 &
 〈シャイニー日向〉(新日本女子プロレス)

 VS

 《村上 千春》(Panther Gym)
 &
 〈Σリア〉(フリー)

休憩前の試合で起こった〈イレス神威〉の乱入事件でいまだざわつく中、試合が開始。
ゴングが鳴るや、千春が日向をいたぶる展開。
タッチを求めるリアだが、千春、見向きもしないありさま。
どうやら、チームワークはよろしくないようだ。
千春が青コーナーに押し返されてきたタイミングで、強引にタッチするリア。

「さ~て、なんちゃって新人王サンに、本物のプロレスっちゅうのを教えて――」
「この……おっ!」
「ンッグッ!?」

日向、ショルダータックルから、高速フロントスープレックス!

「つっう……!?」

立ち上がるのもまたず、ぶっこ抜き投げっぱなしジャーマン!

「~~~~っ!!」

脳天からグサリとマットに突き刺さり、たまらず頭を抱えて悶絶するリア。

「おおっと……こういうのも……あるっ!」
「うぐっ!?」

指を掴んでねじりあげられる反則でペースを乱される。
そこをキックで乱れ打つ、容赦なしのラフ殺法。
ここは、Σリアの場数の豊富さが生きたか。

とはいえ、圧倒するには至らぬまま決着はつかず――

 ○沢登 VS 千春×
 (11分:ノーザンライトボム)

「てめえっ! 何で助けに来ねぇっ!」
「いやぁ……あんなに簡単にピン取られるって思わなくて」
「何をっ!!」

千春を適当にあしらい、マイクを握ったリア、

『なかなかやるわね、“次代の大物”さん! でも、このリア様ほどでは――』

とアピールしようとした、矢先。

「……あぐっ!?」

突然、背後からイスで殴り倒されていた。

「修行してきたってわりには、甘いな~。また国外逃亡したほうがええんちゃう?」
「ぐ……っ、う……!」

J1Kの成瀬唯の人を食った笑み、更には――

「うっふふふ……っ♪ さよ~なら……リ~ア……ちゃんっ!」
「! アンタは……ッ!」

〈大空 ひだり〉――否、〈アトラス・カムイ〉の、ブルーボックスでの一撃!

このとき、日向もまた、J1Kの輩に袋叩きにされていた。

「う、ふ、ふ、ふ、ふ…………」

場外では、〈大空 みぎり〉……いや〈ジャイアント・カムイ〉がラダーを両手に持って大暴れ。

「な~に、うちらも鬼と違うからな。ちゃんと詫びいれて筋通すなら、堪忍したってもええんやで?」
「……っ、だ、誰……がっ!」
「せやろな。じゃ、腕の一本くらいは、貰っとくわ」
「…………!」

マスク越しにもわかるほど嬉々として、アトラスがスレッジハンマーを振り上げる――

「――はあっ!」
「!?」
「な、何やっ?」

突然飛来した影が、アトラスをかっ飛ばす。
いやアトラスのみならず、成瀬や、日向を襲っていた連中も、リングから追い出された。
誰の仕業かと見れば、

《ウィッチ美沙》
《YUKI》
《小縞 聡美》
〈フランケン鏑木〉
《木村 華鳥》

といった、新女の若手グループであった。

『貴方たちの相手は美沙たちがしてあげるのです!

 そう、美沙たち――

 【レッスルエンジェルス・ドリーム】がっ!』

美沙のマイクアピールに、大きなどよめきが起こる。
レッスルエンジェルス――
それはかつて、《マイティ祐希子》たちが立ち上げた伝説的革命軍団。
その名を襲い、新たな革命の炎を上げようとするのか。

『アンタらみたいなひよっこがレッスルエンジェルスぅ? そんなん、身の程知らずにもホドがあるやろ!』

『いかにもさよう――』

と、ここで鏑木がバトンタッチ、

『確かにこちとら、クチバシの黄色いひよっこぞろい。
 身の程知らず、いかにもいかにも。
 されどでっかい組織に属し、ガン首並べて弱いものいじめ。
 そんなチンケな輩の所業、なんで黙って見ておれましょうや。
 なに、諸先輩方が出るまでもない。
 かるく飲み干せるものならば、どうぞ飲み尽くしてごらんなれ。
 たんと悪酔い、二日酔い、ただじゃあ呑まれぬ、干し上がらぬ。
 天使と名乗るは面映いが、お見せしやしょう、ひよっこの意気地――』

と、さんざん口上述べて、

『お手前方の思い通りにはさせやせん――絶対にっっ!!』

最後は、感情を剥き出しにしての咆哮。
場内大いにどよめき、騒然となったのである。

「…………っ」

彼女たちの姿を、日向はまぶしげに仰ぎ見ることしかできなかった……

▼日本 東京都品川区 新日本女子プロレス道場

レッスルエンジェルス・ドリーム――
伝説の軍団の名を襲ったこのユニットへの反響は、多大であった。
もとより、好意的なものばかりではなかったが、

――マイティ祐希子がお墨付きを与えたらしい。

との噂も広がり、その期待感は少なくなかった。
そして……

「美沙先輩、私もユニットに入れてくださいっ」
「はぁ? 何を言ってるのです」

日向の申し出に、ウィッチ美沙は、白けた顔で応じた。

「しょっぱい試合してもひいきされて使ってもらえるスーパースター候補生さんは、美沙なんかに頼まなくても、会社に泣き付けばいいのです。きっと、頼もし~いお仲間を用意してくれるに決まってるのです」
「……っ」

それでも必死に頼む日向に、美沙は条件を出す。
今度の関西興行でJ1Kと対戦するので、そこで結果を出してみろ、と。

「そこまで言うなら――」

と、美沙は条件を出した。
今度、J1Kが京都で自主興行を行なう。

「そこにブッキングして貰いますから、結果を出してください」
「……っ、わかりましたっ」

そのやりとりを、かがりは複雑な思いで聞いていた。
もちろん、戦力は多いにこしたことはないが、正直、面白くはない。

(……せいぜい、お手並み拝見といきやしょうか)

<I・W・J 関西大会>

▼日本 京都府京都市 寿総合文化ホール

<(1)15分一本勝負>

 〈アークデーモン〉(ジャッジメント・サウザンド)
 VS
 《木村 華鳥》(新日本女子プロレス)

<(2)J1Kvs新天使軍 30分一本勝負>

 《成瀬 唯》(ジャッジメント・サウザンド)
 &
 《神田 幸子》(ジャッジメント・サウザンド)
 &
 《村上 千秋》(ジャッジメント・サウザンド)
 &
 〈アトラス・カムイ〉(ジャッジメント・サウザンド)

 VS

【レッスルエンジェルス・ドリーム】
 《ウィッチ美沙》(新日本女子プロレス)
 &
 《小縞 聡美》(新日本女子プロレス)
 &
 〈フランケン鏑木〉(新日本女子プロレス)
 &
 〈シャイニー日向〉(新日本女子プロレス)

<(3)ブレード上原復帰戦 30分一本勝負>

 《ブレード上原》(ジャッジメント・サウザンド)
 &
 《芝田 美紀》(ジャッジメント・サウザンド)
 
 VS

 《中森 あずみ》(ジャッジメント・サウザンド)
 &
 〈高倉 ケイ〉(ジャッジメント・サウザンド)

<(4:休憩前) -KAMUI FINAL- 時間無制限一本勝負>

 《ライラ神威》(ジャッジメント・サウザンド)
 VS
 〈イレス神威〉(フリー)

<(5:休憩明け)スペシャルシングルマッチ カラテvsジークンドー 30分一本勝負>

 《斉藤 彰子》(ジャッジメント・サウザンド)
 VS
 〈Σリア〉(フリー)

<(6)ノールールマッチ 30分一本勝負>

 《六角 葉月》(新日本女子プロレス)
 VS
 〈ランダ八重樫〉(ジャッジメント・サウザンド)

<(7)J1Kvsスーパー柳生衆・1 30分一本勝負>

 《サタン神威》(ジャッジメント・サウザンド)
 &
 《スパイダー神威》(ジャッジメント・サウザンド)

 VS

 《ダイナマイト・リン》(スーパー柳生衆)
 &
 〈MOMOKA〉(スーパー柳生衆)

<(8)J1Kvsスーパー柳生衆・2  45分一本勝負>

 《ジャイアント・カムイ》(ジャッジメント・サウザンド)
 &
 《栗浜 亜魅》(ジャッジメント・サウザンド)

 VS

 《保科 優希》(スーパー柳生衆)
 &
 《近藤 真琴》(スーパー柳生衆)

<(9)メインイベント J1Kvsスーパー柳生衆・3 60分一本勝負>

 《寿 千歌》(ジャッジメント・サウザンド)
 &
 《神楽 紫苑》(ジャッジメント・サウザンド)
 &
 《氷室 紫月》(ジャッジメント・サウザンド)

 VS

 《柳生 美冬》(スーパー柳生衆)
 &
 《寿 零》(スーパー柳生衆)
 &
 《オーガ朝比奈》(スーパー柳生衆)

「景気いいみたいだねぇ。あたしもあやかりたいよ」
「……っ、とんでもない」

バックステージでは、シングルマッチに出場する六角や、

「よっ。調子いいみたいじゃん。悪夢にならないようにね~」
「わ、わかっているのです……っ」

試合のない祐希子もなぜか――その理由は第4試合で判明した――顔を出した。
いわば“御前試合”であるからして、不覚は許されぬ。
まして、準構成員にすぎぬ日向にとってはなおさら。

「……せいぜい、足を引っ張らないようにお願いいたしやす」
「っ、もちろんですっ!」

共闘する以上、鏑木ともうまくやらねばならないだろう。

そして、J1Kとの正面衝突。

<(2)J1Kvs新天使軍 30分一本勝負>

 《成瀬 唯》(ジャッジメント・サウザンド)
 &
 《神田 幸子》(ジャッジメント・サウザンド)
 &
 《村上 千秋》(ジャッジメント・サウザンド)
 &
 〈アトラス・カムイ〉(ジャッジメント・サウザンド)

 VS

【レッスルエンジェルス・ドリーム】
 《ウィッチ美沙》(新日本女子プロレス)
 &
 《小縞 聡美》(新日本女子プロレス)
 &
 〈フランケン鏑木〉(新日本女子プロレス)
 &
 〈シャイニー日向〉(新日本女子プロレス)

「な~にがレッスルエンジェルスや、名前負けにもほどがあるっちゅうねん」
「今はまだ天使の卵でも、ここから大きく成長するのです!」
「いつまで夢(ドリーム)見てんねん!」

日向が先発を買って出て、J1Kのアトラスと対峙。

「この前のようにはいかない……っ!」
「うっふふっ……偽者の……くせに……!!」

日向、がむしゃらなファイトで突貫し、神田や村上の打撃、成瀬の拷問技やアトラスのパワーに痛めつけられながらも、必死に食い下がる。
いつになく感情を剥き出しにしたファイトに美沙たちも触発され、激しくぶつかり合う。

「――鏑木さん!!」
「……承知!!」

鏑木が抱えあげたアトラスに、日向がトップロープから一撃――
日向と鏑木、初めてのツープラトン攻撃・ハイジャック式パイルドライバーを成功させる。

「う、ぐ、ぐ……っ!」

アトラスもたまらず場外へエスケープ。
そして、最終局面では、

「――みしるし頂戴っ!」
「!?」

鏑木が神田をクルリと丸めて破る殊勲を上げ、レッスルエンジェルス・ドリームの初陣を飾った――

 ×神田 VS 鏑木○
 (9分:高速小包固め)

「フン……まぁまぁなのです。とりあえず、端っこに入れておいてあげてもいいのです」
「……っ、ありがとう、ございますっ」

かくして、シャイニー日向は、新たな一歩を踏み出したのである。
もっともこの日の興行では、第4試合で謎の覆面戦士《マイティ・カレーコ》が乱入したり、復帰したブレード上原が独立を表明したり、第5試合の終了後に例のΣリアとJ1Kを裏切ったアークデーモンが結託したり、といったトピックが多々あったため、そこまで大きく取り上げられることはなかったのだけれど。

▼日本 東京都品川区 新日本女子プロレス道場

「こうしてメンバーが集まった以上――まずは、コレなのです!」

バーン、と美沙がテーブルに置いたのは、真新しいポスターである。

「<アルティメット・エンジェル・クラウン>……?」

新女が開催する、若手レスラーの登龍門的イベント。
今回は他団体のルーキーにも大々的に門戸を開くのだという。

「ここできっちり結果を出して……っ」

その先にある、真の“大勝負”……

「<ジャッジメント・ショウダウン>を制するのです!」

今はまだ噂段階でしかない、J1Kと新女(+α)の全面対抗戦。
果たして【レッスルエンジェルス・ドリーム】は、その舞台に立つことができるのであろうか。

2013年01月13日

『天使轟臨』 シャイニー日向 リアクション06 Part1

西暦20X1年、冬。

運命の悪戯が数多の邂逅を生み、神々の遊戯が無限の苦悩を閃かす。

何もかも得ることなどできはしない。

何かを得るためには、何かを犠牲にしなくてはならないのだ。

ある女は言う、過去を捨てなくては未来を得ることはかなわぬ、と。

またある女は言った、過去の己あればこそ、未来を得られるのだと。

どうあれ人は選ばざるをえない、己のゆくべき道を。

その先が頂にいたる道か、奈落の底につづく断崖か、それは誰も知りえない。

だとすれば、その選択のよりどころは。

己の心のなかにしか、ないのかもしれぬ。


“――理沙子、私はね”

“――プロレスが、大好きなんだ”

*-----------------------------
■ジャッジメント・セブン SIDE■
*-----------------------------

▼日本 東京都江東区有明 タイタン有明 PantherGymオフィス

【ジャッジメント・セブン】が本拠地とするPantherGym。
その真夜中のオフィスにて……

「プロレスが興行である以上は――」

《南 利美》がいった。

「――まず、観客が望むものを提供しなければならないわ」

それはそうです、と《内田 希》は同意した。

「ただの競技ならまだしも、プロレスは……そうではありませんし」

競技であったとしても同じことよ、と南はつづける。

「しかし、私たちは奉仕者ではなく、」

支配者でなければならない、と南は説く。

「チケット代、PPV代よりも更に上回るものを、見せつけなければならないのよ」
「……容易なことではありませんね」
「当然よ。それができているレスラーなんて、まぁ、国内では五本の指に足りるていど」
「挙げていただいても?」
「そうね、まずは私」
「…………」

真っ先に自分を挙げるあたりは、南利美の真骨頂というしかない。

「それから、お龍さん(サンダー龍子)、麗華(ビューティ市ヶ谷)、それと……祐希子(マイティ祐希子)くらいかしらね」
「……手厳しい評価ですね」
「あぁ、貴方も悪くはないわ。一流のレスラーには違いないし」

ただ、超一流ではない。
それだけのこと。
おそれいった自信だが、それもまんざら的外れではない。

(……祭典での試合は、まさにそうだった)

先の祭典“Athena Exclamation X”のメイン戦における《武藤 めぐみ》との二冠戦は、まさにリングを、そして会場をも“支配する”ものであった。
もともと南は実力者ではあったが、これまでは祐希子や市ヶ谷らのサポートに回っていたイメージが強い。
それが、【ジャッジメント・セブン】に加担してシングルプレイヤーとして起つやいなや、その存在感は倍加したといっていい。
内田が上戸とのタッグを解消、J7についたのも、南の影響があったことは否定できぬ。
タッグ屋“ジューシーペア”としては高評価を得てきたが、それでは飽き足らなくなってきていた。
もっとも、内田の転身の理由は、そればかりではないけれども。

「フフッ。相棒に悪い、と思ってる?」
「いえ。……別に」
「そう。まぁ、どうでもいいけれど」
「…………」

上戸に、不満があったわけではない。
……いや、まぁ、皆無ではなかったが。
今こうして反体制ポジションについたのは、己の殻を破るため、といってさしつかえない。

「私の解釈ですが」

ジャッジメント・セブンの、本来の存在価値は……

「……祐希子さんが欠場している間の、話題づくりだったのでは?」
「そうかも知れないわね」

新女の、いや日本女子プロレス界のトップに立つ、マイティ祐希子。
ここ最近、故障ということで欠場を続けており、来年正月の新日本ドーム大会で復帰予定。
もっとも、その間に映画出演など芸能活動も活発におこなっており、ケガというのは表向きではないか、という声もある。

「新女ならありそうな話だけど。……ま、無傷のプロレスラーなんていないわ」

長くやっていれば、大なり小なり故障はある。
祐希子の欠場も、オーバーホールと考えれば納得はいく。
そして、その間の話題を保つための布石として……

(ジャッジメント・セブンが作られた……か)

まんざら信憑性がないでもない。
だとすれば、

(祐希子の復帰と共に、J7は消滅……あるいは、リニューアル)

それが、団体側の思惑かもしれなかった。

「ま、(越後)しのぶや斉藤(彰子)も、十分“スター気分”は味わえたでしょ」

今後しばらくは、祐希子と南によるベルト争奪を、メインストーリーとしていきたいのかもしれない。
もっとも、そのとおりに行くかどうかは、さだかではないのだ。

(つまるところは)

新女にとって、他団体との
“共存共栄”
などは、論ずるに値しない。
あわよくばすべてひねり潰し、使えそうなレスラーのみを拾い上げ、シェアを独占したいに決まっているのだ。
まして、“世界戦略”を掲げるならば、なおさらのこと。

(その点、真っ先に狙われるのは……)

東女? いや、あそこの社長は、なかなか食えない。
最近、“あの”《井上 霧子》が加担しているとあっては、なおのこと。
WARS? なるほど、トップの龍子は、考えるより先に行動するタイプ……
しかし、いまやあの“女狐”(《フレイア鏡》)がそばにいるとあっては、そう簡単には崩せまい。
その他の、吹けば飛ぶような泡沫団体は問題外とすれば……

やはり、JWI。
いくら《小川 ひかる》らがついていても、肝心の市ヶ谷がアレでは、どうにもなるまい。

(…………)

南利美はかぶりを振った。
感傷的になっている暇など、ありはしない。
何かを手に入れるためには……

(……何かを、失う覚悟がいる)

そう、たとえば、長い付き合いの友人。

いや、同じ時を過ごしてきた、家族ですらも。

(そして、人の心は、いちど離れてしまえば……)

二度とはたやすく、結びつかぬものなのだから。

*-----------------------------
■新日本女子プロレス SIDE■
*-----------------------------

◆リアクション06共通内容:新日本女子プロレス編(1)
◆リアクション06共通内容:新日本女子プロレス編(2)
◆リアクション06共通内容:新日本女子プロレス編(3)

▼日本 東京都品川区 新日本女子プロレス道場

新女を中心とした【HONEY★TRIP】と【みるきぃ☆れもん】のアイドルユニット抗争は、新たな局面を迎えつつあった。
祭典における対決で、みるきぃ軍のリーダー・《キューティ金井》がHT軍に引き抜かれるという異常事態が発生。
更にそののち、金井は永原・富沢らと同期トリオを結成し、事実上アイドル戦線から離脱した。

いっぽう、トップを失ったみるきぃ軍であったが、《榎本 綾》をセンターとした新体制でリスタート。
新女の《井上 美香》《山元 広美》らに加えて、他団体の《メロディ小鳩》や〈ルカ湖ノ宮〉を引き込み、ガールズバンド形式での巻き返しを図っている。
ちかぢか冠番組をかけての対抗戦が企画されるなど、年の瀬のマット界が<EXトライエンジェル・サバイバー>の話題で持ちきりになるなか、アイドルレスラー業界は独自の路線で華々しく活動していた。

とはいえ、誰もがその潮流に乗れるわけでもない。
たとえば《小縞 聡美》。
みるきぃ軍の一員であったが、榎本体制においては居場所がなく――べつだん不仲なわけでもなかったが――アイドル路線の主流からは外れてしまった。
現在はレスラーの本分に戻り、若手の実力派である〈ウィッチ美沙〉や、ルームメイトである〈フランケン鏑木〉らと共闘する流れに行きつつある。
噂では、美沙を中心として、若手による革命軍団を結成しようと画策しているとか。
それはあたかも、かつて《マイティ祐希子》らが時代を変えるべく結成した伝説の軍団……

――レッスルエンジェルス

その、再来なのかもしれない。

そんな彼女たちの動きを、〈高崎 日向〉は複雑な思いで見つめていた。
アイドル路線に活路を見出したまでは良かったが、《辻 香澄》らほどには染まりきれぬ。
さればレスラーとしての実力を示せているかといえば、そうでもない。
たとえば、先の祭典におけるシングルマッチ……

“Athena Exclamation X”試合結果(2)

あるいはまた。
若手によって競われた、EXTAS出場者決定戦……

リアクション06共通内容:ある日の闘景(1)

▼日本 東京都品川区 新日本女子プロレス道場

かつては顔を合わせるたびに嫌味を口にしていた美沙などは、最近は言葉をかけることすらしなくなった。
無視している――というほどでもなく、たんに無関心でしかないその態度は、悪口雑言よりはるかにこたえるものだった。
針のむしろ、とはこのことであろう。
しっかりとした目的を持ち、自分たちの手でそれを成し遂げようと邁進する美沙や鏑木らの姿に、日向は羨望にちかい感情を抱いていた……

彼女のケータイに一通のメールが届いたのは、そんなおりである。
全文英語であったため、一瞬、スパムかと思ったが、

「! これって……」

アメリカ遠征中、LWWのレスリングキャンプで出会い、スープレックス使いとして意気投合、アドレスを交換した若手レスラー。
ジェナ――《ジェナ・メガライト》。
メールの内容は、いたってシンプルなものである。

“Hi,Hinata.I fight in NJWP-EXTAS”

(彼女も、EXTASに……!?)

参戦が決まったらしい。

“I want to fight Hinata.”

ヒナタと闘いたい――と、メールは締めくくられていた。

(ジェナ……!)

雑念から解放され、ひたすら無心にレスリングに没頭した、あのひととき。
あの時、日向は確信した。

(そうだ……私は……!)

やはり自分は――プロレスが、何より好きなのだと。
目の前に立ちはだかっていると思えた大きな山は、登り、攻略するためのもの。
はたからは苦行としか見えぬその山登りを、彼女は好きで選んだのではなかったか。

(私は……負けないから!)

そんな気持ちを思い出させてくれたメガライトに、感謝と健闘を祈るむねを返信する……

「……っ、さ、サンキュー、だけじゃまずいし……ええっとぉ」

……英語力という高い壁は、なかなか乗り越えられないようであった。

――日本武闘館6連戦。

それが、<EXトライエンジェル・サバイバー>の日程である。
全18チームを3ブロックに分け、総当りのリーグ戦を開催。
最終日において、各ブロックの首位3チームと、敗者復活戦を勝ち抜いたチームによる決勝トーナメントをおこない、優勝を争う。
優勝チームには、賞金として100000000円……つまり1億円が贈られる。
そのブロック分けは以下の通り。

<Aブロック>

“ゴールデン・ボンバーズ”
“NJWP-USA”
“パッション・スリー”
“災凶タッグプラスワン”
“C.B.T”
“魔王と姫と魔法使い”

<Bブロック>

“xXx(トリプルクロス)”
“六角道場”
“ブラックホール・クラスターズ”
“柳生三人衆”
“アニマル・キングダム”
“パイレーツ・オブ・ヨコハマ”

<Cブロック>

“新女魂”
“ジャスティス・フォース”
“Silberne Drache”
“I・W・J”
“レガシー・オブ・レスリング”
“アンノウン・ソルジャーズ”

▼日本 東京都品川区 新日本女子プロレス道場

「……やっかいなブロックに入っちまったなぁ」

“ゴールデン・ボンバーズ”をひきいる《ボンバー来島》がボヤくのも無理はなかろう。
天才・武藤ひきいるUSA軍、最凶お嬢様を擁する災凶タッグ、パラシオンや日本海勢も侮れない。
かてて加えて、“魔王”の降臨ときている。

「ゴチャゴチャ考えても仕方ない。どいつもこいつも、ブン投げてやるだけっすよ」

《マッキー上戸》などは割り切っている。

「アイツの目を覚まさせてやるには……勝ち上がるしかないっすから」

アイツとはつまり、元パートナーのラッキー内田こと《内田 希》のことに他ならぬ。

「まぁな。……ゴチャゴチャ言うより、結果を出すしかないってわけだ。アテにしてるぜ、ゴールデンルーキー」
「…………ッ」

無言でうなずく日向。
果たして、どこまで期待に応えられるのか……それは分からないけれど。

もとより、日向も研鑽を怠っているわけではない。
アイドル軍団【HONEY★TRIP】のリーダー・《藤島 瞳》からは、“魅せるプロレス”の極意を学んだ。
それは、日向の美意識にそぐわぬところも少なくなかったが――たとえば“大向こうをうならせるバンプ(受け身)の取り方”であるとか“より派手な音の出し方”といったもの――ただ闘えばいいというものではない、プロレスの深みというものではあったろう。

「プロレスゆうのは、ボクシングなんかとちがって、お客さんにダメージが伝わりにくいんよね。せやから、あるていど大げさに“強調”する必要があるんよ」
「はぁ……でも、それって、“芝居”しろってことですか?」
「あぁ――まぁ、当たらずとも遠からずやけどね。ソレ、他の先輩の前じゃ言わんほうがええよ。ブッ飛ばされるから」
「………っ」

自分から話を振っておいて、理不尽な言いぐさであった。

「ま、ひなたんがクールキャラでいきたいなら、やめといたほうがええけど、お父さんみたいな熱血キャラでいくなら、そういうのも必要やと思うなぁ」
「はぁ……」

彼女の父、《オリオン高崎》は国内屈指の熱血プロレスラーとして知られている。
その暑苦しさにヘキエキはしても、憧れの対象ではなかった。

―――― さぁ日向、今日の夕飯は大盛りPKGだ!!
―――― え、ピーケージー? なにそれ?
―――― プロテインかけごはん! 今風に言ってみたぞ! さぁ、これでチェンジ・ザ・ボディだ!! C・T・B!! P・K・G!! C・T・B!!  P・K・G!!!
―――― ………………。

……まぁ、幼いころからの基礎トレのおかげで今があると思えば、文句ばかりも言えないけれど。

「ま~でも、うちの言うことなんて、あんま聞かんほうがええよ(アッサリ)」
「え、ええっ??」
「だって、うちもコーチや先輩の話なんか、ろくに聞いてなかったもん」

そんなことを、なぜか自慢げに言う藤島。

「ぜんぶ素直に従っとったら、そんなん、デビューもできずに夜逃げしとったんちゃうかな。適当にサボったりして、いい按配にやっとったわけ」
「……っ、でも、それでどうして……」

生存競争熾烈な新女マットで、成功できたのか?

「考えたんよ。生き残るためにはどうすればいいかって」
「…………っ」
「ひなたんも、とどのつまりは、自分でなんとかするしかないんよね~~」
「は、はぁ……」

藤島の言に惑わされつつも、汗を流すしかない日向なのであった。

▼日本 東京都千代田区 日本武闘館

<1日目>

そして迎えた、<EXトライエンジェル・サバイバー>、本番。
開幕に至るまでは色々とあったが、最大の衝撃は、理沙子の参戦であったろう。
それまでそんな気配は微塵も見せなかったのに。
盟友・上原の従妹であるという凪と組んで出場するとは。

(せめて、一声かけてくれたって……)

いいだろうに、と恨み言のひとつも言いたくなる。
それなのに、発表後に顔を合わせた理沙子ときたら、

――新女さんの大物ルーキーに声をかけるなんて、そんな大それたことができるわけないじゃない。

などと、しゃあしゃあと言ってのけるのだから、たちが悪い。

もっとも、日向は理沙子にばかり気を取られてもいられなかった。
毎試合(彼女のように大物ルーキー待遇であってすら)普段ではありえぬ一線級の強豪たちと闘わねばならぬ。
ことこの大会においては、勝ち負けもさることながら、

――壊されないこと

それも、彼女にとっては闘いであったといえよう。

さて、開幕戦。
初っぱなから、難敵であった。

“ゴールデン・ボンバーズ”
 《ボンバー来島》(新日本女子プロレス)
 《マッキー上戸》(新日本女子プロレス)
 〈シャイニー日向〉(新日本女子プロレス)

 VS

“NJWP-USA”
 《武藤 めぐみ》(新日本女子プロレス)
 《レミー・ダダーン》(IWWF)
 《ミスUSAマスク》(???)

「言うまでもありませんけど――来島さんじゃ勝てません」
「アメリカかぶれに負けるかよ!」

武藤と来島が火花散らすかたわら、謎のマスクウーマンとゴールデンルーキーも視殺戦を展開。

「ヒナタ……レッツ・ストラグル!」
「っ、やっぱり、貴方は……!!」

出場メンバーの中に、メガライトの名はなかった。
が、USA軍の助っ人覆面ファイターの体つきを一目見ただけで、日向には瞭然。
どうやら、約束を果たすときが来たようだ……

<一本目:6人タッグ>

一本目の先陣は、来島と武藤が激突。
武藤のスピードと来島のパワーが交錯、お互い一歩も譲らぬ攻防に場内は早くもヒートアップ。
そこから来島とダダーンの力比べ、上戸とUSAマスクのスープレックス対決などの展開の末、日向がリングに入る。

「ジェナッ!」
「ヒナタァーーー!!}

真っ向からぶつかり合う両者。
ロックアップからバックの奪い合い、腕の取り合い、とオーソドックスなやり取り。
それだけで、

――更に腕を上げている。

数ヶ月前とは違う、とお互いに認識する。

「でやあっ!」
「……!」

バックドロップを狙うもスカされ、逆に背後を取られてクラッチされるが、これはロープを掴んで必死に阻止。
パラシオンの沢崎を病院送りにしたスープレックスは、何としても食らってはならない。
そのまま両者譲らぬまま、USAからダダーンがみずからタッチ、

「のんびりやっとれんからなァ!」
「…………!!」

豪快なスラムで日向を沈め、一本目を先取した。

 ×〈シャイニー日向〉 VS 《レミー・ダダーン》○

 (10分32秒:ボディスラム)

その後、二本目は来島が獲ったが、三本目で上戸が武藤に敗れ、Gボンバーズは初戦を落としたのである。

<二本目:4人タッグ>

 ○《ボンバー来島》 VS 《ミスUSAマスク》×
 (9分24秒:ダブル延髄斬り)

<三本目:シングルマッチ>
 ×《マッキー上戸》 VS 《武藤 めぐみ》○
 (6分17秒:フライングニールキック)

「……っ、すみません……っ」
「ま、いいさ。どんなリーグ戦も、開幕戦は難しいもんだ」

来島に肩を叩かれながらも日向は、勝ち名乗りを受けるUSAに鋭い視線を送っていた……

そして、大会2日目。

“ゴールデン・ボンバーズ”
 《ボンバー来島》(新日本女子プロレス)
 《マッキー上戸》(新日本女子プロレス)
 〈シャイニー日向〉(新日本女子プロレス)

 VS

“パッション・スリー”
 《桜井 千里》(パラシオン)
 《ソニア稲垣》(パラシオン)
 〈坂林 玲〉(パラシオン)

パラシオン代表トリオとの対決。

「オープン戦はおしまいだ。今日からペナントレーススタートだぜ!」
「あれがニュージャパン? フン、レスリングは筋肉でやるものじゃないわ!」

<一本目:6人タッグマッチ>

開幕投手? を買って出た来島、稲垣をはじめとするパラシオン勢を、メジャー団体のプライドを見せつけるかのようなパワーファイトで蹂躙。
しかし坂林が奇襲で仕掛けたカウンター裏拳で鼻から大流血、たまらず投手交代。
中継ぎとして登場の日向と坂林が対峙する。
身長は10cmばかり違い、リーチに差があるだけに、もとより打撃戦は不利。

(あの打撃は強烈……でも、密着してしまえば!)

「とりゃああっ!!」
「…………!」

タックルで一気に距離を詰め、体をつかむやいなや高速フロントスープレックスでブン投げる!
更にコーナーに昇り、ミサイルキックで追い討ちを……

「……っと!」
「つあっ!?」

これは読んでいたか、坂林が間一髪でかわして自爆を誘い、

「……どおおおっ!!」
「んっぐううっ!?」

倒れた日向の土手っ腹に、強烈なヒザを叩き込む。
そのまま、顔面へマウントパンチの連打!
もちろんプロレスルールでは反則なので、レフェリーに制止される。

「こ……のおおおっ!!」
「…………!!」

カッと熱くなった日向が、突っ込んできたところへ……

「おっぐっ!?」

カウンターのヒザが待ち受けていた。
アゴに入ったクリティカルな一発で、日向の意識は吹き飛んだ……

 ×〈シャイニー日向〉 VS 〈坂林 玲〉○
 (10分36秒:ニーリフト)

ゆえに、その後の展開はほとんど記憶にない。
気がつけば、リング上で勝ち名乗りを受けていた、ということになる。

<二本目:4人タッグマッチ>

 ×《ソニア稲垣》 VS 《マッキー上戸》○
 (7分14秒:ヘッドバット)

<三本目:シングルマッチ>

 ×《桜井 千里》 VS 《ボンバー来島》○
 (10分44秒:ぶっこ抜きジャーマン)

「やれやれ、まずは1勝だな」
「あと全部勝てば、決勝トーナメントなんでしょ? 楽勝っすね」
「気楽でいいねぇマッキ」
「すみません……っ、私、また……」
「気にすんな。お前さんは、お前さんにできる仕事をやりゃあいいのさ」
「…………っ」

<大会3日目>

「……いやはや。また面倒なのが出やがったぜ」
「……あの御仁とだけはやりたくなかったっすね」

来島や上戸すら、嫌がる相手……
だがそれも、仕方ないかもしれない。
なにしろ、

“ゴールデン・ボンバーズ”
 《ボンバー来島》(新日本女子プロレス)
 《マッキー上戸》(新日本女子プロレス)
 〈シャイニー日向〉(新日本女子プロレス)

 VS

“災凶タッグプラスワン”
 《ビューティ市ヶ谷》(JWI)
 《十六夜 美響》(VT-X)
 〈紫乃宮 こころ〉(JWI)

「オーーッホッホッホッ! この兆両役者相手には不足もいいところですけれど、せいぜい引き立て役として輝かせてさしあげますわ!」
「麗華さま流石です!」
「………………」

リング上で相対したビューティ市ヶ谷という“生物”は、予想を遥かに超えた……何か、のようだった。

<一本目:6人タッグマッチ>

この頃になると。
日向にも、この試合形式の“攻略法”がわかってきていた。
ぶっちゃけ、自分が勝ち星を上げるのは容易ではない。
ならばせめて、相手のエース格に負ければ、“道連れ”にすることができる。
だが、相手が同程度のキャリアなら、話が違う。

JWIの紫乃宮……先日おこなわれた“Top of the Cruiser Girls”にも参戦していた。
そのさいはブロックが別だったため、手を合わせることはなかったが、

「麗華さまのため……絶対、負けられない!」
「…………!」

並外れた気迫は、あのときより更にパワーアップしているような気さえする。
あの市ヶ谷のどこにそんなに心酔しているのかは、わからないけれど。
パワーでは上戸を相手にしても引けをとらないものがあるだけに、

(正面からぶつかるのは愚策!)

「せりゃあっ!」
「……うわっ!?」

奇襲のヘッドホイップシザースで投げ飛ばし、機先を制する。

「こ……のっ!」
「くうっ!!」

ダッシュからの顔面へのサッカーボールキックをあやうくかわし、

「……でええいっ!」
「!?」

トップロープを踏み台にしてコーナーポストに飛び移り、そこからミサイルキック!
幻惑されたこころはこれをまともに食らい、もんどりうって倒れる。
華麗さと威力のあいまった一撃に、場内からもどよめきが起こった。

(っ、やった……!)

練習でもやったことのない流れだったが、ズバリとはまった。

(あの動き……)

ひそかに試合を観戦していた理沙子は、思わずうなったものである。

(あれは……月美さんの)

月美、すなわち日向の母《LUNA》が得意としていた華麗なトライアングル・ミサイルキック。
反発するようなことを言いつつ、しっかり参考していたのか?
あるいは、幼い頃に観たムーブが、とっさに出たのかもしれない。

(おやおや……)

こころに代わってリングに入ってきた“彼女”を観て、理沙子は微笑をうかべた。

(さて、どれだけ通用するかしらね?)


ありていにいえば、まったく通用しなかった。
ビューティ市ヶ谷と日向との闘いは……
試合というより、一方的な破壊。

「う、ぐ、ぐ……!!」
「やれやれですわ。今の新女には、こんな三下しかおりませんの? とんだ凋落ぶり。驕る者ひさしからずとはよく言ったものですわ!」

日向を踏みつけながら大笑する、たぶん日本一傲慢な当人。

「麗華さま、タッチを!」
「おっと……そうでしたわね。まったく、誰ですの? こんな七面倒なルールを考案したのは」

こころと交代しようとする市ヶ谷……だったが、その手を叩いたのはもう一人の選手。

「!? ちょ、十六夜さんっ?!」
「フフッ。ずっと休んでいるのも、退屈なの」

九州の雄【VT-X】のトップ、“災厄の女帝”十六夜美響である。

「おい、高崎っ! 代われ――」
「…………っ」

来島の声をよそに、歯を食いしばって立ち上がり、十六夜をにらみつける日向。

「後は……っ、お任せしますっ!」

ここで、日向が十六夜に敗れれば。
残るは来島&上戸と市ヶ谷&紫乃宮。
二本目で一枚おとる紫乃宮を叩ければ、あるいは勝機も見えてくるであろう。

「フフ……少しは楽しませてくれるのかしら? 月の落とし子さん」
「……!」

妖しく舌なめずりしながら、嗜虐的に微笑む十六夜。
果たして手も足も出ず、ボロボロにされる日向……
しかし、その目は死んではいなかった。

「でやあっ!」
「……!」

とっさのトラースキックで十六夜をグラつかせたところへ……

「………………!」

身体が、本能に突き動かされるように反応する。
コーナーポストを、一息に、駆け上がり……
そのまま、翔んだ。

『お…………おおおおお!?』

それは、観たものが思わず目を奪われざるをえない、羽が生えているかのような、飛翔。
太陽は、高らかに昇り……
そして、沈んだ。

<一本目:6人タッグマッチ>

 ×《十六夜 美響》 VS  〈シャイニー日向〉○
 (10分27秒:360°スプラッシュ+エルボー)

3カウントが叩かれるや、場内は割れんばかりの大歓声に包まれた。

 “永遠の未完の大器”
 “昇らぬ太陽”
 “サンシャインガール(笑)”
 “へなたん”

とさんざんコケにされてきた彼女が、その名に恥じない大仕事をやってのけたのだから、それも道理であろう。
のちに『サンセットスプラッシュ』と称されることになる大技の、衝撃的なお披露目であった。

日向畢生のジャイアントキリング(大物食い)により、風向きは一気にGボンバーズに傾いた。
市ヶ谷軍はそのままペースを取り戻せず……

「ええいっ、猪口才な!」
「てめーみたいなのを……猪武者っていうんだよ!」
「……!?」

突進してきた市ヶ谷を来島がカウンターのDDTで仕留め、二本先取にてGボンバーズが勝利を果たしたのである。

<二本目:4人タッグマッチ>

 ○《ボンバー来島》 VS 《ビューティ市ヶ谷》×
 (6分26秒:DDT)

「やりやがったな、高崎!」
「あんな隠し玉があるとはな。菊池サンに教わったのか?」
「いっ、いえ……その、勢いというか」

あれは、もうほとんど無意識的なもので。
のちに映像を観返しても、もう一度やってみる気には、なかなかなれなかった。
これを「技を大事にしている」と見る向きもあったが、要は恐怖心と……空中殺法で名高い母への、複雑な心情ゆえであろう。

<4日目>

“ゴールデン・ボンバーズ”
 《ボンバー来島》(新日本女子プロレス)
 《マッキー上戸》(新日本女子プロレス)
 〈シャイニー日向〉(新日本女子プロレス)

 VS

“C.B.T”
 《相羽 和希》(日本海女子プロレス)
 《杉浦 美月》(日本海女子プロレス)
 《ノエル白石》(日本海女子プロレス)

3連敗でもはや予選突破の目がないCBTだが、意地を見せんとぶつかってくる。
杉浦のテクニックや白石のパワー、相羽の……えーっと、相羽の元気のよさなどで畳み掛けてくる。

「ちょっと!? ボクだけポイントぼんやりしてない!?」

日向が白石のパワーに屈したものの、二本目・三本目を上戸・来島が奪取、3連勝でリーグ戦突破に望みを託したのである。

<一本目:6人タッグマッチ>

 ×〈シャイニー日向〉 VS 《ノエル白石》○
 (7分32秒:ロメロスペシャル)

<二本目:4人タッグマッチ>

 ○《マッキー上戸》 VS  《杉浦 美月》×
(9分38秒:ジャンピングニーパット)

<三本目:シングルマッチ>

 ○《ボンバー来島》 VS 《相羽 和希》×
 (4分26秒:延髄斬り)

<5日目>

そして、リーグ戦最終戦……

“ゴールデン・ボンバーズ”
 《ボンバー来島》(新日本女子プロレス)
 《マッキー上戸》(新日本女子プロレス)
 〈シャイニー日向〉(新日本女子プロレス)

 VS

“魔王と姫と魔法使い”
 《ダークスターカオス》(WWCA)
 《ソフィー・シエラ》(TWWA)
 〈ルカ湖ノ宮〉(日本海女子プロレス)

ここまで4連勝の魔姫魔に対し、3勝1敗のGボンバーズは、これに勝てば逆転で決勝トーナメント進出となる。
湖ノ宮は紫乃宮同様TCGに参戦していたが、やはりブロックが違っていたので対決はなかった。
聞けば、チームメイトのギャラは自腹らしく、優勝して賞金をゲットするのが至上命題らしい。
……日本海女子というのは、なかなかに破天荒な団体らしかった。

「負けられない……日本海女子の看板と、そして私の人生のために!!」
「そんなの、こっちだって……っ!!」

先発を買って出た湖ノ宮と日向、感情を剥き出しにしてぶつかり合う。

「わが右腕に集え、混沌とか闇の力とか! ダークスターハルカッ……ホゲ~~~!?」

カオス譲りの? ラリアットを放とうとした湖ノ宮の顔面に、カウンターでドロップキックを食らわせる日向。
その後、本家カオスの猛攻に追い込まれたりしたものの……

<一本目:6人タッグマッチ>

 ×〈シャイニー日向〉 VS  《ソフィー・シエラ》○
 (12分12秒:パイルドライバー)

<二本目:4人タッグマッチ>
 ○《マッキー上戸》 VS 《ダークスターカオス》×
 (4分26秒:サンドイッチラリアット)

<三本目:シングルマッチ>
 ○《ボンバー来島》 VS 〈ルカ湖ノ宮〉×
 (4分12秒:ボストンクラブ)

上戸がカオスを撃破する殊勲をあげるなどして、ついにBボンバーズ、逆転で予選ブロック突破を果たしたのである。

「やれやれだな。ま、最低限の目標はクリアだが」
「ここまできたら、優勝しかありませんよっ」

経験豊富な来島と上戸も、テンションが上がっている。
何しろ、新女系チームで勝ち残ったのは、彼女たちのみ。

「それに、アイツをブン殴るには、決勝まで行かないとですからね」
「……流石にやるな、アイツらは」

内田ようするJ7の“xXx(トリプルクロス)”は、Bブロックを全勝(しかも全試合で二本勝利!)で突破。
彼女たちと闘うには、お互い決勝まで行くしかない。

<最終日>

かくして“ゴールデン・ボンバーズ”は4勝1敗でAブロックを制し、決勝トーナメントに駒を進めた。
相対するは、Cブロック1位・J7を追放された《カーメン成瀬》ひきいる正体不明のミイラ集団“アンノウン・ソルジャーズ”である。

“ゴールデン・ボンバーズ”(Aブロック1位)
 《ボンバー来島》(新日本女子プロレス)
 《マッキー上戸》(新日本女子プロレス)
 〈シャイニー日向〉(新日本女子プロレス)

 VS

“アンノウン・ソルジャーズ”(Cブロック1位)
 《ミステリアスパートナー1号》(?)
 《ミステリアスパートナー2号》(?)
 《ミステリアスパートナー3号》(?)

「わけのわからねー連中だが、油断は禁物だな」
「…………っ」

Cブロックでは、理沙子ら“レガシー・オブ・レスリング”に敗れたのみで、4勝1敗での勝ち上がり。
実力は確かなものに違いない。

<一本目:6人タッグマッチ>

先発は来島とMパートナー3号。
来島の剛力をのらりくらりとかわす体術は、見かけによらぬもの。
代わって上戸と2号がやり合うも、これまたつかみどころがない。
タッチした日向もペースつかめず、ゾンビパウダーを食らうなど幻惑されたあげく、あえなくピンフォールを奪われた。

 ×〈シャイニー日向〉 VS 《ミステリアスパートナー2号》○
 (11分14秒:ヒップアタック)

Bボンバーズ、そのまま流れをつかめず……

<二本目:4人タッグマッチ>

 ×《マッキー上戸》 VS 《ミステリアスパートナー1号》
 (3分31秒:飛びつき腕ひしぎ逆十字)

つまるところ、ストレート負けに終わってしまった。
かくして、BボンバーズはUソルジャーズに敗退、決勝進出はならなかったのである。
日向にとってみれば、まぁまぁ……というには、物足りぬ結末であったといえよう。
十六夜から大金星を挙げた以外は一本目で獲られており、お世辞にも活躍したとはいえぬ。
この経験を肥やしにできるかどうかは、彼女の今後次第であろう。

ちなみに、決勝戦のカードは……

“アンノウン・ソルジャーズ”
 《ミステリアスパートナー1号》(?)
 《ミステリアスパートナー2号》(?)
 《ミステリアスパートナー3号》(?)

 VS

“災凶タッグプラスワン”
 《ビューティ市ヶ谷》(JWI)
 《十六夜 美響》(VT-X)
 〈紫乃宮 こころ〉(JWI)

「……ゴキブリなみにしぶとい奴らだな」

来島が呆れるのも無理はない。
Aブロックで敗退した災凶Tだが、敗者復活ガントレットマッチで破竹の5連勝を果たして大復活。
準決勝では、因縁浅からぬ“xXx(トリプルクロス)”と対決、これを下しての決勝進出である。
とはいえ。
今日だけで実に7試合目。
まだ2試合目にすぎないUソルジャーズとは、消耗度の差は歴然。
ここにいたっても、

――このていど、ちょうどいいハンデですわ。

と呵呵大笑する市ヶ谷の図太さは底が知れぬ。
かくて決勝戦は、異例となる外敵チーム同士の対決……と、思われた。

が、事態は意外な展開をむかえる。
決勝のゴングを前に、Uソルジャーズがその正体を露にしたのである――

黒の長髪が目立っていた3号は、すなわち《氷室 紫月》――
小柄なテクニシャンの2号は、《ナイトメア神威》――
そして、長身の実力者である1号は……《カンナ神威》。

「うちらは【ジャッジメント・セブン】の別働隊! さしづめ、“リアル・ジャッジメント”ちゅうこっちゃ!」

J7を追放されたとは方便に過ぎなかった《カーメン成瀬》……いや、《成瀬 唯》がうそぶく。
そして、J7が決勝まで残っていれば途中で負けても良かったが、こうなっては仕方ないから優勝させてもらう、と大言壮語。

“リアル・ジャッジメント”
 《カンナ神威》(フリー)
 《ナイトメア神威》(苛無威軍団)
 《氷室 紫月》(フリー)

 VS

“災凶タッグプラスワン”
 《ビューティ市ヶ谷》(JWI)
 《十六夜 美響》(VT-X)
 〈紫乃宮 こころ〉(JWI)

<一本目:6人タッグマッチ>

一本目、カンナが十六夜を仕留め、この時点で絶体絶命……

 ○《カンナ神威》 VS 《十六夜 美響》×
 (2分20秒:エクスプロイダー)

<二本目:4人タッグマッチ>

しかしここでこころが大奮起、氷室から殊勲の星をあげてイーブンに。

 ×《氷室 紫月》 VS 〈紫乃宮 こころ〉○
 (11分53秒:パワーボム)

<三本目:シングルマッチ>

ナイトメアと市ヶ谷の一騎打ちとなる――が、ここで《ライラ神威》ひきいる【苛無威軍団】が乱入、ノーコンテストに。

 ▲《ナイトメア神威》 VS 《ビューティ市ヶ谷》▲
 (14分10秒:苛無威軍団乱入によるノーコンテスト)

しかし龍子たち他チームが苛無威軍を排除、再試合となる。
最後は市ヶ谷渾身の“美神降臨”(災厄降臨)が炸裂、決着となった――

 ×《ナイトメア神威》 VS ○《ビューティ市ヶ谷》(JWI)
 (4分42秒:美神降臨)

しかしそれもつかのま。
試合後にはJ7がリングを占拠、そこへ再度寿千歌ひきいる苛無威軍団が現れる。
遺恨のある両軍は対立……と思いきや、南と千歌がガッチリと握手。

――マット界にはびこる罪は七つどころではない。幾千にもおよぶ。
――そのすべての罪を裁くため、あえて悪をも呑み込もう。

ここに新軍団【ジャッジメント・サウザンド】(J1K)を結成を宣言、日本マット界の完全制圧を掲げたのである。
これに新女正規軍をはじめ、市ヶ谷や龍子らが反発、“J1Kvs女子プロレス界”の構図がより明解なものとなったのはいうまでもない。

このとき、日向も来島らに従ってはいたが、市ヶ谷や龍子らに混じってはその他大勢にすぎぬ。
インパクトを残せなかった、といっても、仕方のないところであったろう。

とまれかくまれ。
大混乱の末、歳末のビッグイベント<EXトライエンジェル・サバイバー>は幕を閉じた……

▼日本 東京都品川区 新日本女子プロレス寮

遥かに格上の相手との連戦は、日向の肉体に悲鳴を上げさせるに十分だった。
故障こそまぬがれたものの、熱を出してダウンしてしまったのである。
それでも、ほんの数日で回復にむかったのは、流石に若さというしかない。

「すこしゆっくりすればいいんじゃない? 無理して悪化しちゃったら、元も子もないし」
「う……ん」

《辻 香澄》に言われ、おとなしくしておくことにする。
どのみち。
わずかな休息の先には、苛酷な毎日が待っているのだ……いやおうなしに。

果たして。
回復した日向に、ハードな選択が待っていた――


 → 『天使轟臨』 シャイニー日向 リアクション06 Part2

2012年06月25日

『天使轟臨』 シャイニー日向 リアクション05 Part2

◇◆◇ 3 ◇◆◇

そして――

“Top of the Cruiser Girls”全出場チーム入場式

<<< Top of the Cruiser Girls >>>

 *30分一本勝負。
 *勝ち点……勝ち=2点 引き分け=1点 負け=0点
 *最終的に各ブロック上位2チームによるトーナメントを行い、優勝者を決定する。

<Aブロック>
《ソニックキャット》 & 《星野 ちよる》
《野村 つばさ》 & 〈MARIPOSA〉
〈大空 ひだり〉 & 〈高倉 ケイ〉
《ストロベリー香澄》 & 〈シャイニー日向〉
《ジョーカー・レディ》 & 《テディキャット堀》
《佐尾山 幸音鈴》 & 《マスクド・ミステリィ》

<Bブロック>
《ディアナ・ライアル》 & 《小早川 志保》
《ソニック・ザ・ブラックナイト》 & 〈カナ高橋15世〉
《金森 麗子》 & 〈紫乃宮 こころ〉
〈フランケン鏑木〉 & 《?》
〈MOMOKA〉 & 〈?〉
《ダークドラゴン1号》 & 〈ダークドラゴン2号〉

(負けられない……っ、結果、出さないとっ)

バックステージにて、改めて気合を入れる日向。
彼女を鼓舞する要素は、たとえば別ブロックながら出場を果たしている鏑木などの存在もあるが……

(メガライト……あの人にも……!)

《ジェナ・メガライト》。

アメリカ遠征において、LWWのレスリングキャンプで接した若手レスラー。
互いに投げを得意とすることもあって息が合い、リング上での再会を期したものである。
その彼女が、広島の【パラシオン】の大会に参戦、歴戦のファイター・沢崎を秒殺、病院送り。
鮮烈過ぎる日本デビューを果たしたのだ。

 ×沢崎 vs メガライト○(1ラウンド22秒:ベリー・トゥー・バック)

(いつか、闘う時が来たら……その時は!)

「ほな、ぼちぼち行こか~。ご両人?」
「あっ、はいっ!!」
「ちゃんと振り付け確認しとかんといかんよ~?」
「…………」

……どういう形での再会になるのかは、さっぱり、イメージが湧かないが。

<<大会1日目>> - 東京都 後楽園プラザ -

 《ストロベリー香澄》(新日本女子プロレス) & 〈シャイニー日向〉(新日本女子プロレス)
 VS
 《ジョーカー・レディ》(AAC) & 《テディキャット堀》(フリー)

Merry Merrily』に合わせて入場の“イノセント・キッス”。

「日向ちゃん……悪いけど、手加減は出来ないから!」
「もちろんです、咲恵さんっ!」

試合前のダンスコーナー(もっとも踊っていたのはもっぱらマネージャーの藤島であったが)に惑わされたわけでもあるまいが、序盤はT堀が日向にエルボーを食らわされるなど、太平洋軍劣勢。
しかし地力では遥かに上回るだけに、たちまち形勢逆転。
サンドイッチ式スワンダイブドロップキックが日向に決まった時は、これで決着か――と思われたが、間一髪で辻がカット。
むしろIK軍が合体技『ボクごとジャーマン』(ジャーマンで敵を捉えた辻ごと、日向がブン投げる。ジャーマンを封印中の辻ならではの捨て身技と言えよう)を食らわせるなど、あわやという場面を作り、すわ大金星か――と期待を抱かせる。
しかし両者譲らず、30分ドローという結果に終わった。

 ▲Jレディ vs 日向▲(30分:ドロー)

「……っ、やるねっ、日向ちゃん……でも、次は、負けないから!」
「こ、こち、ら、こ、そ……っ」

気息奄々とはいえ、“イノセント・キッス”の初陣としては、上々であったか。

<<大会2日目>> - 栃木県 うつのみや市営体育館 -

 《ソニックキャット》 & 《星野 ちよる》(勝ち点:3)
 VS
 《ストロベリー香澄》 & 〈シャイニー日向〉(勝ち点:1)

ジュニアの覇者・ソニックに、若手アイドルレスラーコンビが挑む一戦。
初勝利と金星を狙う“イノセント・キッス”は、序盤こそ日向が星野をスリーパーで捕獲するなどチャンスを作るも、ソニックの牙城を揺るがすまでには至らない。
ソニックが場外の辻に華麗なラ・ケブラーダを決めている間に、星野が日向をクルリと丸め込んで決着――

 ○星野 vs 日向×(16分26秒:スモールパッケージホールド)

 IK軍、初勝利はお預けとなった。

<<大会3日目>> - 千葉県 幕張コンベンションホール -

 〈大空 ひだり〉 & 〈高倉 ケイ〉(勝ち点:1)
 VS
 《ストロベリー香澄》 & 〈シャイニー日向〉(勝ち点:1)

ほぼ同等同士のキャリアを持つチーム同士であり、五分の闘いが期待された一戦。
もっとも、タッグの年季ならば急造コンビの“スカイ・ハイ”よりも、幼馴染同士の“イノセント・キッス”が優るのは道理であった。
最後に決めた“恋天使降臨”(合体不知火=日向がパワーボムで持ち上げた所へ辻が不知火)などは、新女ならではというより、彼女たち2人ならではのコンビネーションであったろう。

 ○香澄 vs 高倉×(12分22秒:恋天使降臨(合体不知火))

<<大会4日目>> - 神奈川県 横浜文化総合体育ホール -

 《野村 つばさ》 & 〈MARIPOSA〉(勝ち点:0)
 VS
 《ストロベリー香澄》 & 〈シャイニー日向〉(勝ち点:4)

第4戦は、ここまで勝ち点無しのWARS軍“バタフライエフェクト”との対戦。

「あんたがたやっぱちっこくて可愛いな~。負けたら、うちらのユニットに入らへん?」
「瞳さん! ナンパは試合の後にして下さいっ」

MARIの気合もあってか、試合はお互い譲らぬ互角の攻防。
IK軍が野村に合体ジャーマンを決めれば、BE軍も負けじと、MARIの三角蹴りからの野村のスペースローリングエルボーを日向に食らわせるなど、好連携を見せる。
この日のベストバウトといっていい闘いは、ドロー間近の所で、日向の豪快な決め技が火を吹き、決着――

 ○日向 vs MARI×(28分22秒:サンライズジャーマンスープレックス(高角度ジャーマンスープレックス))

2勝1敗1分けの勝ち点7とし、決勝トーナメント出場に希望をつないだ。

<<大会5日目>> - 東京都 両国コロシアム -

 《佐尾山 幸音鈴》 & 《マスクド・ミステリィ》(勝ち点:10)
 VS
 《ストロベリー香澄》 & 〈シャイニー日向〉(勝ち点:7)

最終戦は、佐尾山たち“ハート・オブ・J7”との同門対決。
IK軍、これに勝てば勝ち点で並び、逆転で決勝トーナメント進出となる一戦。

「そんなチャラチャラした格好じゃ勝てないよっ!」
「せ、セーラー服のさおさおに言われたくないっ!!」

しかし、実力差はいかんともしがたいものがあった。
辻と佐尾山は同等でも、マスクドMの強烈な打撃にはIK軍手も足も出ず、最後はツープラトンの打撃ラッシュで決着。

 ○佐尾山 vs 香澄×(15分9秒:エルボー)

2勝2敗1分けで、イノセント・キッスのTCGは幕を閉じた――

「く……っ! ゴメン……」
「香澄ちゃんのせいじゃないよ……私が……っ」
「お疲れ様。惜しかったわね、二人とも」
「えっ? あ……っ、はい……」

マスクド・ミステリィに肩を叩かれ、囁かれる。
同じ新女系とはいえ、正体は聞かされていない。
どうやら、知り合いではあるのだろうか。
しかし、打撃中心のこのファイトスタイルには、記憶にないものであった。

ちなみに、同じく新女から出場のフランケン鏑木は、《YUKI》なる覆面レスラーと組んでリーグ戦を闘い、やはり2勝2敗1分けに終わっている。

そして、その後の決勝戦。

<<決勝戦>>

<Aブロック1位>
 《佐尾山 幸音鈴》 & 《マスクド・ミステリィ》
 VS
<Bブロック1位>
 《ディアナ・ライアル》 & 《小早川 志保》

決勝に駒を進めたのは、順当に両ブロックの1位チーム。
奇しくも、新女・東女の最強チームがぶつかることとなった。
両軍、これが3試合目とは思えぬ運動量でぶつかり合う。
クルーザー級の頂点を決める戦いにふさわしい激闘にも、フィニッシュが近づいてきた。
ディアナと小早川が初披露の秘技・“ダブルムーンサルト・デュアル”で佐尾山を追い詰めたが、これはミステリィが間一髪カット。
場外で佐尾山とディアナがやり合っているさなか、一騎討ちとなったミステリィと小早川。
ミステリィ、渾身の打撃――と思いきや、

「っっ!!」

予想外の高速サブミッション。
ガッチリと極まったドラゴンスリーパーに、小早川はタップする以外はなかった。

 ○マスクドM vs 小早川×(24分29秒:ドラゴンスリーパー)

(……っ、あれは、どこかで見たような……)

『まぁ、楽勝やね~。東京女子、ぜんぜん大したことあらへんなぁ~~』

勝利者インタビュー、マイクを奪い取った《Judgment-NARU》――その正体は《成瀬 唯》と目されている――が東女勢を煽る。

『悔しかったら、年末の<EXトライエンジェル・サバイバー>に出てこいや! 恥かくのが怖いなら、しゃ~ないけどな~~』

ちゃっかり、年末のEXリーグ戦の宣伝をぶつあたり、抜け目がないというしかない。

「……!!」

ここで真っ先に動いたのは、フリーのヒール・MOMOKAであった。
イスを手に乱入、成瀬……じゃない、JNRを殴打して蹴散らすや、

『面白いじゃないっ! その喧嘩! 買ってあげるわ――――』

激昂した佐尾山が殴りかかり、それを阻止する湖ノ宮やMARIPOSA、関係なく乱闘を始める大空と鏑木、巻き込まれる紫乃宮や日向、客席に愛想をふりまく南奈、どさくさまぎれに目立とうとしてリング外に投げ飛ばされるお約束をかます高倉……などなど、リング上は混乱のまま、第一回TCGは幕を閉じた――

そして、一ヶ月後。

▼日本 東京都新宿区 国立霞ヶ丘陸上競技場

新日本女子プロレスの――いや、日本最大のプロレスの祭典『Athena Exclamation X』が開催された。
国立競技場には10万人近いオーディエンスがつめかけ、史上最大規模のイベントとして盛大に幕を開けたのである。
大会のサブタイトルは“Last Judgment”――――
その名の通り、【ジャッジメント・セブン】が中心となるマッチメークが行なわれ、《ビューティ市ヶ谷》が久々に新女のリングに上がり、《サンダー龍子》が初参戦するなど、色々な意味で話題の多い大会となった。

メインイベントでは、《マイティ祐希子》が負傷のため返上した“ダブル・クラウン”をめぐり、王座決定戦が行われた。
しかし、そのカードは、しばらく前なら予想だに出来ないものである。

<メインイベント NJWP・IWWF認定無差別級タイトルマッチ 時間無制限一本勝負>

 《南 利美》(ジャッジメント・セブン)
 VS
 《武藤 めぐみ》(NJWP-USA)

市ヶ谷を裏切り、【ジャッジメント・セブン】の新たなボスとして君臨する《南 利美》と、アメリカから凱旋した新女の新鋭・《武藤 めぐみ》の対決。
新星武藤の縦横無尽な無重力殺法に大観衆は酔いしれたが、久々の祭典登場となった南も緩急自在の攻めで応じ、次第にペースを掴んでいく。
そして終盤、武藤の秘技・“フロム・レッド・トゥ・ブルー”(青コーナーに配置した敵めがけ、赤コーナー最上段からミサイルキックを放つ超跳躍技)を受け切った南が、新技“ダブルクロス・サザンクロス”(変形リストクラッチ式エクスプロイダー)を繰り出し、決着――

 ○南 vs 武藤×(24分13秒:ダブルクロス・サザンクロス)

『残念だったわね。まだまだ、貴方じゃ勝てないって事よ――』

“ダブル・クラウン”を奪取した南、そしてJ7が、新日本女子の覇権を握ることとなった。
混迷を深める日本の女子プロレス界は、更なる闘いのステージへ突き進む――

2012年06月24日

『天使轟臨』 シャイニー日向 リアクション05 Part1

この宇宙(そら)に、いったいいくつの星々が生まれ、散っていったのだろう?

この惑星(ほし)に、いったいいくつの生命が生まれ、そして地に空に還っていったのだろう?

それを知るすべは、誰にもありはしない。

西暦20X1年、秋……

天と地の理(ことわり)と同じく、人の作り出した存在にも、いずれ終わりは訪れる。

プロレス団体も、その摂理から逃れることは出来ない。

されどその終わりは、あるいは始まりに過ぎないのかも知れないのだ……

◇◆◇ 1 ◇◆◇

◆リアクション05共通内容:新日本女子プロレス編(1)
◆リアクション05共通内容:新日本女子プロレス編(2)

◇◆◇ 2 ◇◆◇

▼日本 東京都品川区 新日本女子プロレス道場

タッグで香澄に勝ったとはいえ、〈高崎 日向〉にとってはまだまだ一歩に過ぎない。

「っ、今度は負けないから!」

と必死に平静を装う香澄を気遣いつつも、

「香澄に勝ったぐらいで、調子に乗らないようにねっ!」

と《菊池 理宇》との激しいスパーで追い込まれる日々。
そんなある日、日向に呼び出しがかかった……

▼日本 東京都江東区有明 タイタン有明

【Panther Gym】のオフィスを訪れた日向。
呼び出したのはもちろん、

「北海道じゃ、お手柄だったみたいね?」
「……っ、偶然ですよ」

理沙子に香澄を破った件を振られて、当惑する日向。
あれはまだまだ僥倖で、香澄を超えた……などと言えるものでは、到底ない。

「ふぅん、偶然で勝てるほど、簡単な相手だと言うことかしら?」
「そっ、そうじゃないですけどっ」
「そうでしょう? 卑下するのは良くないわね」
「…………」

それはさておき、と理沙子は咳払いし、

「どうする気なの?」

と、単刀直入に尋ねてきた。

「…………」

何のことかは、言わずとも分かる。
【Panther Gym】に移籍する気があるのか、と言うことなのであろう。
どうも、周囲は彼女が理沙子の所に移るのは“規定事項”と見なしているフシがある。

「……私からも、聞いていいですか」
「あら、何かしら?」

そこで日向は、理沙子の真意を問いただした。
本当に、新女から独立するつもりなのか? と。

「ふふっ、信用ないのね。何度も言っているでしょう?」

元々、こうした形で、若手を育てたいという気持ちがあった。

「でも、これまでは――」

彼女の眼鏡にかなう若手がいなかったこともあり、踏み切れずにいた。

「だったら、どうして今……」
「今は、違うから」
「…………?」

一瞬、意味が分からなかった。
が、理沙子のまなざしから、じきにその意を悟る。

「! ひょっと、して……」
「そう――高崎日向。貴方を」

手塩にかけて鍛えてみたくなったの、とパンサー理沙子は微笑んだ。

「そ、それって……っ」

つまるところ、この一連のドタバタは。
ただ、日向を鍛えたかった一心――
と、いうのだろうか。
それが本当だとして、

「っ、でも、それなら……」

新女の中にいても、可能だったのでは?

「ちょっとは感じてるでしょう? ……いろいろと、ややこしいのよ。“新女さん”は」
「…………っ」

大所帯ゆえに、さまざまな人間の利害が錯綜する新女。
それを避けるためには、しがらみのない“城”を作るしかない……

「すぐに決断して――とは、言わないわ」

言われずとも、とても、即答出来る話ではなかった。

「さてと、せっかく来たんだし、汗、流していくでしょ?」
「え……っ、え、え……」

▼日本 東京都品川区 新日本女子プロレス道場

ひとまず保留したとはいえ、理沙子の言葉は日向の頭から離れずにいた。

(……っ、ひとまず、忘れないとっ)

もっと、身近な問題がある。
それは、辻香澄の懊悩であった。

中堅レスラーとしてある程度の実績は残しているものの、新女の中での立ち位置は微妙。
折しも同期の幸音鈴が【ジャッジメント・セブン】に加入、菊池のジュニアタイトルへの挑戦が決定するなど、自分のレスラーとしての在り方に悩んでいる。
日向がそんな香澄の様子に気づいたのは、デビューを果たし、ようやくレスラーとしての毎日に慣れつつあったためであろうか。
とはいえ、後輩である自分から励まされたり、忠告されたりするのは、いくら友人であっても辛いことであろう。

そんなおり、小耳に入ったのは、GPWWAジュニアタッグリーグ戦――正式名“Top of the Cruiser Girls”――TCGの件であった。
GPWWA(国際女子プロレス連合)は、【東京女子プロレス】が音頭をとって立ち上げた女子プロレス統一コミッション。
独自のコミッションを持つ新女とは相容れない存在と言えるが、以前開催された“ニューフェイスカップトーナメント”には新女からも選手が出場、優勝を果たしていることから、出られないものでもあるまい。

「ねえ、香澄ちゃん。出てみようよ。新女の外に出てみて、わかることもあるかも知れないし」

現状の打破のため、一緒に参戦することを提案する日向。

「う~ん……でも、さおさおたちが出るみたいなんだよね……」
「……え」

どうやら既に、佐尾山たちJ7軍が出場を決めているらしい。
となると流石に、新女から2チームと言うのは厳しいかも知れない……

しかし、拾う神もあるというわけで、話を聞きつけてきたのが

「なんならウチが口聞いてやってもええよ~?」

アイドルレスラー《藤島 瞳》。

「っ、ホントですか?」
「モチのロン。そのかわり、ちょ~っと条件があるんやけど~」
「え……?」

▼日本 東京都渋谷区 B.B.アップルホール

 藤島 瞳ファン感謝イベント ~ 可愛い方が勝つって決まっとるんよ・3 ~ 

国内屈指の人気アイドルレスラー・藤島瞳(新日本女子プロレス)。
彼女のファン感謝イベント、いわゆる“カワカツ”第3弾。
トークショーや歌のコーナーなどでファンとの交流を図る催しである。

この場にて、藤島がリーダーをつとめるアイドルユニット【HONEY★TRIP】(いわゆるハニー・トラップ=色仕掛けのもじり)のメンバー紹介がおこなわれた。
そのメンバーは、新日本女子から

《辻 香澄》
《サキュバス真鍋》
〈高崎 日向〉

の3人である。
同時に、辻は《ストロベリー香澄》、高崎は〈シャイニー日向〉へのリングネーム変更も発表された……

はや自明であろう。
藤島の出した条件――それは【HONEY★TRIP】への参加だったのである。

「新女からやなくて、【HONEY★TRIP】からの参戦……てことなら、会社も目くじらたてんやろ」

との、お達し。
正統派レスリングスタイルの二人はアイドルレスラーになることに難色を示したが――日向は母親のこともあるのでなおさら――

「何事も経験じゃない?」

という菊池のアドバイスもあり、参加することを決意するのだった。

「それはそうと、なんでつかさまで入るのさ?」
「にひひ。いーじゃん。ほら、この辺でぇ、誰がかすみんの正妻かってことわからせておかなきゃだしぃ~」
「…………」

ひそかに、正妻戦争も勃発していた。

「……それにしても、このコスチューム、どうにかならないんですかね」

これまでとは段違いの、アイドルっぽさ全開のフリフリ衣装。
ちなみに、高崎という名字はアイドルにしては固すぎるということで、シャイニー日向というリングネームとあいなった。
日向本人も気に入り、このリングネームを使い続けることになるのだった。

「なんなら、お母はんにちなんで《SUN》とかでもええよ」
「謹んで固辞します!」

「あ、それから入場曲も変えんとね~~」
「そ、そうなんですか……?」
「……そら、アレはアイドルとしてはあかんやろ」

Burning Through The Night”(Roxanne)では、ダメらしい。

ちなみに、【HONEY★TRIP】には新女以外のメンバーとして、

《渡辺 智美》(激闘龍)
〈南奈 るい〉(東京女子プロレス)

の名前も挙がった。
この中でも、南奈の名前は意外なものだったといえる。
ほぼ全面外交な激闘龍と異なり、新日本女子と東京女子はライバル関係にある。

「まぁ、ええんちゃう? 可愛いは正義やし~」

という藤島のざっくり感のおかげであろうか。

「この子、日向。同じ新人やし、仲良うしたってね~」
「……っ、どうも」

藤島に紹介され、南奈に挨拶。

「は~い、よろしくね、ヒナちゃん!」
「は、はい……」

にっこり明るい笑顔で握手してくる南奈。
どうも、こちらの方がずっとアイドル向きのようだった。

▼日本 東京都新宿区 新宿FATE

新日本女子の若手中心の興行、“Angel Pit”。
小規模会場ながら、未来のスター候補を見ようと客席の熱気はただならないものがある。
そのメインイベントは、

<メインイベント 30分一本勝負>

 《ウィッチ美沙》 & 〈シャイニー日向〉 with《藤島 瞳》
 VS
 《小縞 聡美》 & 《榎本 綾》 with《キューティ金井》

藤島と金井がそれぞれセコンドについての一戦。
《天神 美沙》あらためウィッチ美沙は日向のルームメイトだが、おせじにも折り合いがいいとは言えぬ。

「フ~ン、期待のチョ~新星さんは、リングに上がるにも付き添いが必要なのですか~?」
「……っ」
「ま、そういうことやんね。なんなら、美沙っぺの面倒も見てあげるけど?」
「願い下げなのです。美沙は“自分の力”だけで上に行くのです。プッシュされまくりの誰かさんとは違うのですっ」
「く……っ」

返す言葉もない日向であるが、いざゴングが鳴れば、雑念は失せる。

「でやぁっ!!」

先輩たち相手にも物怖じしない、バチバチしたファイトを見せていく。
いわゆるストロングスタイル志向の戦法。
が、藤島からはさっそく容赦ないダメ出しが入る。

「あかんわ。全然美しくないな~~」
「その格好でそんなプロレスやってもしゃ~ないやん?」
「ガチガチいくのもええけど、もっとお客さんの目を気にせんといかんよ」

(……っ、そんなこと、言われてもっ)

「余所見してないで、試合に集中するのですっ」
「っ、は、はいっ!」

そっけない美沙であるが、意外とスムーズに連携をこなしてみせる。
小縞に決めた、日向のDDTからの美沙のノーザンライトスープレックスへの流れるような攻めが最大の勝機だったか。

「へ~、やるやん美沙っぺ。悪いこと言わんから、うちらと組んだら~?」
「ハァ、ハァ、そんな、口車には……あいった!?」

油断テキメン、小縞のラリアットからの脇固めに、あえなく屈した。

 ×美沙 vs 小縞○(12分25秒:脇固め)

「まだまだあかんね~。道場で絞り直しやね」
「……っ、よろしく、お願いします」

▼日本 東京都江東区有明 タイタン有明 “Panther Gym”道場

いっぽう、日向は有明道場にもたまに顔を出している。
といっても、正直、敷居が高いのだったが。

「あら、日向。今日もサボりに来たわけ~?」
「そんなわけないじゃないっ」

彼女の母、《高崎 月美》。
かつて新女において、《LUNA》というリングネームで活躍した彼女だが、現在は引退して専業主婦。
後輩で遠縁でもある理沙子の要請で、ちょっとしたコーチ役を買って出ているというわけ。

「ふふ、こちらの稽古の方がキツいんじゃありませんか?」

これは《ミミ吉原》。新女の鬼コーチだが、最近はこちらに足を運んでいることも多い。
やはり理沙子の手伝い、ということだったが……
何かキナ臭い気がするのは、新日本女子ならではであろうか。

そんなある日のこと……

「日向! ちょっと来て頂戴」
「えっ? あっ、はい」

練習中、ふいに理沙子に呼ばれた。
行ってみると、見知らぬ覆面姿の女、そして、

「あ、日向ちゃん?」
「あっ……咲恵さん!」

堀咲恵――《テディキャット堀》。
もと新女のレスラーで、理沙子の後輩にあたる。
日向とは以前から面識があった。
現在は、《ブレード上原》すなわち、上原今日子の下で活動しているはずだったが……

「あのっ……今日子さんは?」
「……っ、うん、大丈夫。すぐ、退院出来るから」
「そう……ですか」

上原が、練習中に負傷、入院を余儀なくされたと言う話は、聞いていた。
今日子とは子供の頃、よく遊んで貰ったりしたものだけど……

「高崎日向。私の――そうね、後継者候補って所かしら」

覆面の女に、ざっくりとした紹介をする理沙子。

「ちょっ!? 理沙子さんっ!!」

日向の抗議にかまわず、

「この子と、手合わせして貰おうかしら」
「…………」
「え? ええっ?」

良く分からぬままに、日向は、謎の怪覆面〈イレス神威〉とスパーリングする羽目になった。

 〈シャイニー日向〉(新日本女子プロレス)
 VS
 〈イレス神威〉(太平洋女子プロレス)

「でやああああっ!!」
「ウッグ……ッ!?」

イレスの豪快なダイビングショルダーが決まり、日向がのけぞった。

「――そこまで」

理沙子の冷静な声に、イレスは追撃を踏み止まった。

「もういいわ、日向。お疲れさま」
「く…………っ」

その場では、彼女の正体は定かでなかったが……
じきに、いやがうえにも明らかになったのである。

その舞台は、【Panther Gym】、旗揚げ戦!

▼日本 東京都江東区有明 タイタン有明

 ― Panther Gym 旗揚げ戦 “Law of the Jungle”―

(第0試合)<ダークマッチ:ハルク本郷プレデビュー戦>:15分一本勝負

 《ハルク本郷》(Panther Gym)
 VS
 〈ブラッディ・マリー〉(プロレスリング・ネオ)

※入場曲、選手紹介などもないダークマッチ。
 本郷はこれが実質的なデビュー戦。
 Panther Gymの理念を見せ付けての勝利が義務だ。

(第1試合)<オープニングマッチ:30分一本勝負>

 《佐久間 理沙子》(Panther Gym)&〈シャイニー日向〉(新日本女子プロレス)
 VS
 〈イレス神威〉(太平洋女子プロレス)&〈フランケン鏑木〉(新日本女子プロレス)

※理沙子、本名で登場。初心を思い出す一戦。
 パートナーには“次代の大物”日向を抜擢した。
 対するは、《ブレード上原》を血祭りに上げた“地獄仮面”イレス神威と、村上姉妹らを追放し、ヒールユニット【夜叉紅蓮】をわがものにした極悪レスラー・鏑木からなる外道コンビ。
 理沙子&日向は怪人チームを退治して、団体の船出を飾ることが出来るであろうか?

(第2試合)
 《奥村 美里》&《小松 香奈子》(Panther Gym)
 VS
 《霧島 レイラ》&《楠木 悠里》(プロレスリング・ネオ)

※若手コンビが外敵を迎え撃つ。

(第3試合)
 《Judgment-ONE》&《Judgment-ZERO》(ジャッジメント・セブン)
 VS
 《ドルフィン早瀬》&《森嶋 亜里沙》(プロレスリング・ネオ)

※J7軍が外敵に胸を貸す一戦。

(第4試合)
 《後野 まつり》&《庄司 由美》&《村上 千春》(Panther Gym)
 VS
 《神田 幸子》&《Judgment-NARU》&《村上 千秋》(ジャッジメント・セブン)

※若手トリオがJ7軍と対峙する。

(第5試合)
 《キューティ金井》&《小縞 聡美》&《榎本 綾》(新日本女子プロレス)
 VS
 《藤島 瞳》&《ストロベリー香澄》&《サキュバス真鍋》(新日本女子プロレス)

※アイドルユニット【HONEY★TRIP】が【みるきぃ☆れもん】と対決。

(第6試合)
 《沢登 真美》(Panther Gym)
 VS
 《菊池 理宇》(新日本女子プロレス)

※ジュニア王者・菊池が沢登の挑戦を受ける。

(第7試合)
 《佐尾山 幸音鈴》&《マスクド・ミステリィ》(ジャッジメント・セブン)
 VS
 《テディキャット堀》(太平洋女子プロレス)&《永原 ちづる》(新日本女子プロレス)

(第8試合)
 《南 利美》(JWI)&《山田 遙》(フリー)
 VS
 《マッキー上戸》&《ラッキー内田》(新日本女子プロレス)

※アジアタッグ王者に挑むのは、南&山田の危険な狼コンビ。

(第9試合)
 《パンサー理沙子》(Panther Gym)&《ボンバー来島》(新日本女子プロレス)
 VS
 《越後 しのぶ》&《斉藤 彰子》(ジャッジメント・セブン)

※新旧アジアヘビー王者が、J7のツートップと対峙する。

上原を負傷させたのは、他ならぬイレスであった。

(今日子さんの、仇……!)

もとより、そのパートナーとも因縁浅からぬものがある。

「アイドルレスラー転向たァお利巧なことで――弱くったってご声援を頂戴出来るんですからなァ」
「わ、私だって……好きでこんな格好してるわけじゃッ!!」

意地のぶつけ合いで、見せ場は作った日向とかがりだったが……
若手時代のコスチュームや入場曲で登場した理沙子、勝ちにこだわり気迫を見せ付けたイレスに引っ張られた試合だったのはいなめない。

試合は、イレスが日向をフォール。
リベンジとはならなかった。

 ×日向 vs イレス○(19分41秒:ダイビングショルダー)

この因縁が、点に終らず線となってつながっていくのかどうか……
それは誰にも分からない。

そして、新女九州巡業。
大分では、日向に取ってきわめてハードなカードが組まれた。
すなわち、

▼日本 大分県 別府ビーコンホール

<セミファイナル 45分一本勝負>

《マイティ祐希子》 & 《菊池 理宇》 & 〈シャイニー日向〉
 VS
《大空 みぎり》 & 《近藤 真琴》 & 《大空 ひだり》

シリーズ最終戦の九州ドーム大会における、祐希子vsみぎりの“ダブル・クラウン”王座戦の前哨戦。
何と言っても、日向にとっては、ジュニア王者・菊池と組むのだけでも十分にプレッシャーなのに、

(祐希子さんと、なんて……っ)

先日、新女の道場に現れた際は、スパー相手を買って出た鏑木をドロップキック一発で失神させたと聞く。

(……っ、あの人も、頑丈さだけは凄いのに)

祐希子の力、もって思うべしと言うほかない。

「お手並み見せて貰うわよ、理沙子さんの愛弟子サン?」
「……っ、はい……っ」

もっとも、この試合のメインは、なんといっても祐希子vsみぎり。
とりわけ、大空姉妹はそろって祐希子を狙い撃ちにしてきた。
ことに祐希子の命とも言うべきスピードを殺すべく、下半身を主に攻め、足腰にダメージを与えていったのである。
ひだりの怪力、みぎりの暴虐っぷり、加えて近藤のキレのある打撃で集中攻撃されては、さしものチャンピオンもただではすまぬ。

「好き勝手には……やらせないっ!」
「うふふ~、まだまだ……って、あれええぇ~~~?」

 ○日向 vs ひだり×(26分29秒:ジャーマンスープレックス)

最後は日向の人間橋にひだりが沈んだが、試合後、祐希子は一人で帰れず、菊池たちに肩を借りるありさま。
誰もが、王座防衛に黄信号――と確信した一幕であった。

そして、シリーズ最終戦のドーム大会。
ここでは、【HONEY★TRIP】と【みるきぃ☆れもん】の全面対決が行われた。

▼日本 福岡県福岡市中央区 九州ドーム

<6人タッグマッチ 60分三本勝負>

【HONEY★TRIP】
 《藤島 瞳》&《ストロベリー香澄》&〈シャイニー日向〉
 VS
【みるきぃ☆れもん】
 《キューティ金井》&《小縞 聡美》&《榎本 綾》

*一本目はダンス、ニ本目は歌、三本目はプロレスで決着がつけられる。
*なお、三本目を取ったチームが勝ちとなり、CDデビューが認められる。

「……って、一本目とニ本目、意味なくないですか」
「ええやん。そういうもんなんよ」

ちなみに、真鍋はアンダーカードに出場している。

<夜叉紅蓮残党・共食い4WAYマッチ 30分一本勝負>

 《村上 千春》vs《村上 千秋》vs《サキュバス真鍋》vs〈フランケン鏑木〉

*敗者は新女を追放される

「って、なんであたしはこんなカードなのー!」

と真鍋がブツクサ言い出すのも道理であろう。

(鏑木、かがり――)

ヒールユニット【夜叉紅蓮】が、リーダー・《八島 静香》の欠場以来、バラバラになっていったのは知っていたが……
こんなエゲつないカードと、アイドル対決が同じ興行に組み込まれているのは、天下広しと言えども新女のみであろう。

このサバイバル戦のゆくえがどうなったかは、鏑木かがりの物語に譲るとして……

日向たちの試合の行方はと言えば。

まず一本目の歌対決。
これは、歌唱力に定評のある金井と榎本を要する【みるきぃ☆れもん】が圧勝した。

続くダンス対決。
これはぶっちゃけどちらもどっこいな出来であったが、榎本がミスを連発したので、消去法で【HONEY★TRIP】。

結局は、三本目のプロレス対決で決着をつけることになった。
ここでは、ダンス対決のミスを取り返さんものと榎本が大ハッスル、遂には日向からギブアップを奪ったのである。

 ○榎本 vs 日向×(15分5秒:コブラツイスト)

かくして、アイドルユニット対決第一ラウンドは、みるきぃ軍に軍配が上がった。
どっこいしかし、HONEY軍も黙って引き下がりはしない。

『こうなったら、うちらの実力見せたるわ! T・C・G! “Top of the Cruiser Girls”!
 うちらが出場して、賞金500万円、バッチリいただいてきます~~!!』

藤島の宣言により、香澄&日向のTCG挑戦が始まったのである。

その後のメインイベントにも、触れておく必要があるであろう。

<メインイベント NJWP・IWWF認定無差別級タイトルマッチ 60分一本勝負>

 〔王者〕
 《マイティ祐希子》(新日本女子プロレス)
 VS
 〔挑戦者〕
 《大空 みぎり》(寿千歌軍団)

前哨戦において、祐希子はみぎりやその妹〈大空 ひだり〉の集中砲火を浴び、大きなダメージを負っていた。
痛々しいテーピング姿で入場してきた祐希子の姿を見た観客のみならず、日向ら新女勢の脳裏にも、V12ならず、王座陥落――そんな可能性がよぎった。
だが、この祐希子vsみぎり戦は、予想外の結末となったのである。

「ごめ~ん。……長くは持たないから、“早食い”で行くわ」
「……!?」

ゴング早々、手負いのはずの祐希子が“翔んだ”。
その場飛びの“超高層”ドロップキックが、みぎりの顔面に炸裂――

「~~~~~ッッ!!」

思わぬ奇襲に、思わずうずくまったみぎりに、祐希子の容赦ないサッカーボールキックが追い討ちをかける。
そのまま手をゆるめず、殴る、蹴るの一方的な猛ラッシュ。
それはもはや、プロレスの“範疇”を超えた、暴力、そのものであったかも知れない。

普段ならば、一流の“受け”を披露し、風車の理論で一進一退の攻防を魅せ、その上で勝利する祐希子。
が、怪我の影響で、それは難しい――ゆえに、非情の速攻ケンカマッチを仕掛けたのだ。

「ひぃ……ひぃぃ、ひいぃぃぃぃ……」

悲痛に泣き叫ぶみぎりをギリギリと絞り上げ、最後は片逆エビで非情のギブアップ勝利。
勝ち名乗りを受けた祐希子に笑顔がなかったのは、およそ納得のいかぬ内容であったためであろうか。

 ○祐希子 vs みぎり×(9分30秒:片逆エビ固め)

(……っ、こんな……非情な……)

思わず、怖気が走るような、凄絶な試合。
これもまた、新女ならではの風景となるのであろうか……

なお、この大会後、祐希子は負傷を理由に王座を返上、“ダブル・クラウン”は空位に。
王座決定戦は、次回のメガイベント・『Athena Exclamation X』にて行われることになった。

ちなみに、負傷欠場となった祐希子だが、その後、映画出演などは普通にこなしていたため、

――あのケガは、フェイクではないか。

という噂も聞かれた。
つまり、映画出演のため欠場……では聞こえが悪いので、負傷したというテイにした、というのだ。
短時間での決着も、全ては計算どおりというわけ。
もとより、虚実のほどは定かでない……が、仮に事実だとすれば、新女らしいにも程のある話であろう。
何しろ、この試合で無残に心をヘシ折られたみぎりが、プロレスへの恐怖を訴え、実家に帰ってしまったのは事実なのだから。

2012年06月04日

『天使轟臨』 サイドストーリー 月下の追想

「さあ、本日のメインイベント、特別試合、タッグマッチ60分一本勝負もいよいよ大詰めです! 試合序盤から試合を優位に進めていたドラゴン藤子とLUNAのコンビ、一時は外国人チームの逆襲に会う場面も見られましたが連携で切り抜け試合の流れをつかんでいます。さあ、そろそろフィニッシュに向かうか!?」
「おおっと、LUNAがコーナーに上ります! 観客へ投げキッスを飛ばし、出たー! ムーンサルトプレス! カットには、藤子がいかせない! カウント、スリー! 決まったー! 本日のメインイベント、決めたのはLUNA!」
「みなさんご存知の通り、オリオン高崎選手と結婚・出産し、一時は引退も噂されていたLUNA選手ですが、復帰後もブランクを感じさせないファイトで『月光の麗人』健在を見せてくれています。若手の成長も著しい新女ですが、まだまだその華麗な戦いぶりは追随を許しません。今後の活躍にも期待がかかります!」
「おお、リングサイドには若手の佐久間選手に連れられたLUNA選手のお嬢さん・日向ちゃんの姿も見られます。LUNA選手、日向ちゃんを抱きかかえて笑顔を見せます。オリオン高崎選手とLUNA選手の娘さんですから、将来は親娘2代でプロレスラーということもあるかもしれませんね」
「それでは、興奮冷めやらぬ後楽園プラザからお別れします。本日の実況はファウルチップ服沢がお届けしました」

               ◇       ◇       ◇

「ママ、かっこよかったおー」
「ふふ、ありがと。日向が応援してくれたおかげよ。それじゃひなた、ママは着替えるから今日子ちゃんと待っててくれる?」
「うん、わかったおー。きょーこちゃん、いこー」
「今日子ちゃん、悪いけどお願いね。理沙子は着替え手伝ってくれる?」
「はい」「わかりました」

「……日向と今日子ちゃん、行った?」
「ええ」
「そっか。あいたたたたた……!」
「月美さん! 大丈夫ですか!?」
「だいじょぶだいじょぶ、と言いたいけど、ちょっとキツイわ~。やっぱ最後のがやばかったわねえ」
「膝がそんな状態なのに。せめてムーンサルトなんか止めていれば」
「ムトーさんやコバシさんだってやってるじゃない。あの人達に比べればまだあたしの膝なんてマシよ?」
「それはあの人達と比べればそうでしょうけども」
「メインだったしクイックで終われる感じなかったしね~。お客さんの期待に応えてこそプロ、ってあいたた…。理沙子、悪いけどテーピングお願い。あんまり今日子ちゃん待たせても悪いからね」

               ◇       ◇       ◇

「……月美さん、そろそろいいんじゃないですか」
「ん、何が?」
「わかってるはずです」
「ん~? ……辞めろってこと?」
「……はい」
「あらあら、エラくなったもんねぇ~、佐久間選手。そーゆーナマイキな口は藤子からベルト獲ってからいいなさいな。まだまだあんたや今日子ちゃんに新女は任せらんないわね」
「ベルトは必ず獲ります。新女だって守ってみせます。だから、そんな身体で無理しないでください!」
「何? あんたから見てLUNAの試合は見てらんないほど酷かった?」
「そんな、そんなことありません。それどころか膝がそんな状態なんて、信じられないくらいでした」
「でしょ? だから大丈夫だって」
「それでも、このまま続けていれば必ず限界が来ます。そのときに大怪我でもしたら、星司さんも日向ちゃんも悲しみます」
「それはレスラーの奥さんに言うことじゃないわね。ま、星司さんにも遠まわしに言われたんだけどね」
「それでなんて?」
「『あなたが私の立場だったら止めてる?』って言ったら黙っちゃったわ。あの人も大概プロレスバカよねえ。そこがいいんだけど♪」
「…………」
「もう、そんな顔しないの。わかってるって。私だって動けなくなったらすっぱりと止めるつもり。お客さんにボロボロの姿を見せてもいいキャラじゃないしね」
「わかりません。プロレスが好きだから、ってだけじゃないですよね。どうして、そこまで現役にこだわるんですか」
「ん~……。正直さ、日向を産むまでは辞めるつもりだったのよ。あたしとしてもレスラーとしてやれることはやったって満足感はあったし。藤子がいて、あんたや今日子ちゃんがいれば新女の心配はいらないしね。
 でもね、生まれてきたあの子の顔見たらさ、リングに立ってるあたしの姿を見せたくなったの。
 あたしはさ、プロレスっていう自分が一番輝ける場所で精一杯やってきたつもり。だから、そういう自分にふさわしい場所で一生懸命生きていけるってことはすごく幸せなことなんだってことを伝えたいの。
 別に日向にレスラーになってほしいっていうんじゃないよ。あの子の人生だもん。好きに生きればいい。でもね、あの子がどんな道を選ぶにしても、リングに立つあたしの姿を覚えてれば、そういう生き方を選んでくれるんじゃないかなって思うの。
 だからさ、身体が動く限りは、あたしのプロレスをあの子に見せ続けたいのよ」
「日向ちゃんのため、ってことですか」
「ただの自己満足かもしれないけどね」
「…………。そこまでおっしゃるのなら、私からはもう何も言いません。でも、本当にダメなときは無理矢理にでも止めますからね」
「あら怖い。わかってるってば。そのためにもさっきの台詞、ちゃんと実現しておねーさんを安心させて頂戴な」
「はい。必ず!」

-------------------------------------------------------------------------------------------------

「そういえば、そんなこともあったわね~。あの頃のあんたは可愛かったのに、いつの間にこんな色々企む悪いおねーさんになっちゃったのよ」
「もう、誰のせいですか。少なくともこういう性格になった一端はあなたが担ってますよ」
「わかってるってば。……それにしても、結局、あの子の中にちょっとは何か残せたのかしらね?」
「ふふ、大丈夫。ちゃんと伝わってますよ。本人はまだ気づいてないみたいですけどね」
「そうだといいんだけどね~。ま、リングの女王のお墨付きを信じますか」

2012年03月24日

『天使轟臨』 LUNA&オリオン高崎 キャラクター紹介

レッスルPBeMの日向の両親の設定を仕事中につらつらと書き綴っていたんですが(仕事しろ)、せっかくなので公開しときます。

LUNA
本名・高崎月美。旧姓・月見里(やまなし)。
新潟県長岡市出身。

世代的にはドラゴン藤子と近い。藤子らと発展期の新女を支えた。
タイトルに絡むことはあまり無かったが、セクシー系アイドルレスラーとして藤子に匹敵する人気を誇った。

レスラーとしてはルチャをベースとして、飛び技中心で戦うタイプ。丸め込みも得意。
魅せるレスリングが中心だが、海外遠征時代にシュートの技術も学んでおり、まれにそのナイフを抜くことも。

人気絶頂時にプロレス大賞のパーティで後に夫となるオリオン高崎と出会う。
お互いほとんど一目惚れのような形であっという間に大恋愛に発展し、結婚。
プロレス界のビッグカップルの誕生は多くのファンから祝福されたが、涙を流す月美のファンも多かったとか。
日向を出産後もママさんレスラーとして活躍していたが、数年後に引退。
現在は専業主婦。ダンナとはラブラブ。いまだに美貌も衰えず、近所の商店街のマドンナ的存在だとか。

パンサー理沙子とは親戚(はとこの子同士)。
理沙子の母方の実家が長岡で子供の頃は長岡で暮らしていたこともあり、子供の頃から付き合いがあった(なお、そのため過去の資料には理沙子が新潟出身とされているものもある←旧作設定)。
若手の頃は月美の試合中、日向の面倒を見てたこともあったらしい。

特定のモデルはいないが『遥かなるリング』の内藤リリアさんのイメージがちょっとあったり。

得意技:クレッセント・フリップ(雪崩式不知火)、ムーンサルトプレス、ムーンクレイドル(高速ローリングクレイドル)


オリオン高崎

本名・高崎星司。
東京都出身。

学生時代はレスリングで活躍し、将来のエースとの期待を背負って某大手団体に入団。
プロレス入りしてしばらくはアマレスとの違いに苦しみ、恵まれた体格を生かすことができずにいた。
リングネームをオリオン高崎と変更し、三ツ星タイツを履くようになってからようやく吹っ切れたのか、体躯を生かした豪快なファイトを身につけ、メインイベンターに躍り出た。
全盛期を過ぎた現在もまだまだ若手にとっては高い壁として立ちはだかっている。
趣味はトレーニングという練習の虫で、練習量ではいまだに他の選手の追随を許さない。

「恋人はプロレス。理想のタイプは赤コーナー」と呼ばれるほどの朴念仁だったが、プロレス大賞のパーティで出会った月美に一目惚れ。大恋愛の末に結婚。
家ではやや天然なもののいいお父さんをやっている。月美とはいまだにラブラブ。娘には甘いが、すぐトレーニングをさせようとするので日向には疎まれているようだ。

モデルは小橋と永田さんだったがむしろ健介っぽくなった。

得意技:バックドロップ・ホールド、オリオンドライバー(高角度ドクターボム)、オリオンハンマー(振り下ろし式ローリングラリアット)

2012年02月19日

『天使轟臨』 シャイニー日向 リアクション04

(パンサー理沙子デビュー15周年記念興行・特別試合終了後の選手控室)

「理宇ちゃん、今日はありがとうね~。さすがジュニアのチャンピオン、心強かったわ」
「私の方こそ、子供の頃テレビで観てたLUNA選手と一緒に試合ができて光栄でした!」
「子供の頃かあ。そうよねえ。私がおばさんになるわけだわ」
「あ、すいません。そんなつもりじゃ!」
「いーのいーの。ホントにおばさんなんだから。理沙子や京子ちゃんもこんな気分を味わってるのかしらね~」
「でも、本当に今日の試合はすごかったですよ。何年もブランクがあったなんて信じられないです」
「ん~、そう言ってくれるのは嬉しいけど、やっぱキツイわね。もう身体ガタガタ。一試合くらいなら誤魔化しきくけど、これが精一杯かな~」

「ところで理宇ちゃん、ウチの娘、どう?」
「日向さんですか? 基礎はもうできてますし、新人の中ではダントツだと思います。さすが月美さんとオリオン高崎選手の娘さんですね」
「まあね~。子供の頃はウチのジムが遊び場みたいなもんだったし、ダンナも練習バカだから調子に乗って鍛えたしね」
「ただ、やっぱり浮いちゃってますね。若手の娘たちや他の新人たちともあまり仲良くないみたいだし」
「やっぱね~。人付き合いとか苦手なのよねあの娘。要領よく立ちまわるとかできないし。
 ね、理宇ちゃん、ちょっとでいいからさあ、あの娘のこと気にかけてやってくんない? 別に贔屓しろとかじゃないんだけどさ、あの娘、意地っ張りなうえに不器用じゃない? 自分からドツボに突っ込んじゃうとこがあんのよね。
 親としてはあの娘の素質に期待してんのよ。もちろん本人の力が足りないんなら仕方ないけどさ、私達や理沙子のことで変なしがらみで潰れちゃったらもったいないかなーって」
「確かに私から見ても潰れさせるには惜しいですね。それにしても、日向さんのこと大切に思ってるんですね」
「んー、ま、これでも親だからね~。あ、このこと、日向にはナイショよ。またヘソ曲げるといけないから」
「ふふっ、わかりました。何ができるかわかりませんけど、お引き受けします」

◇◆◇ 0 ◇◆◇

西暦20X1年、夏――

渾然となって馳せ巡る数多の運命の輪は、まだ見ぬ未来へとただ一心に突き進む

歴史を人間が作るのか、人間がたどった轍それそのものが歴史なのか?

されど一度、四角いリングの魔性にとらわれたならば、もはや引き返すことは叶わぬのだ

少女たちの流す汗も、涙も、すべては闘いのキャンバスを彩る画材にすぎぬのであろうか――

◇◆◇ 1 ◇◆◇

 ▼ アメリカ オハイオ州リッチフィールド

「全世界のファンの皆様こんばんは。本日はオハイオ州から【IWWF】リッチフィールド大会の模様をお伝えします――」

リッチフィールド、ガンド・アリーナ。
一万人以上の観衆が集まり、熱気に包まれている。
IWWF――それはアメリカ、いや世界最大の女子プロレス団体である。
北米はもとより、世界150ヶ国でTV放送が行なわれており、その人気は他のメジャースポーツに劣らぬものがある。
昨年には、なぜか突然女子野球リーグ【XLB】を旗揚げ、世間を驚かせた。
もっともこちらは観客動員が伸び悩み、わずか1シーズンで打ち切られてしまったが。

「まだやってたら、わたしも試合に出して貰おうと思ってたのになぁ……」

バックステージにて残念そうに嘆いたのは《結城 千種》。
日本の【新日本女子プロレス】から遠征中の若手レスラーである。

「あ~ぁ、代打でいいから打席に立ちたかったな~~」
「……いくらなんでも、プロレスラーは出場出来ないでしょ」

冷静きわまるツッコミを入れたのは《武藤 めぐみ》。
千種同様、日本から遠征中の新女の選手である。
綺羅星のごとくレスラーが揃った新女の中でも、新時代のスター候補として期待の高い両名であった。

そんな話をしているのは、何も彼女たちが暇しているから、ではない。
彼女たちに与えられたギミック(キャラクター設定)が、この【XLB】がらみのものだからである。

――【XLB】が潰れて廃業した野球選手が、IWWFに恨みを晴らそうと殴りこんで来た。

という設定……らしい。
ちなみに常にバットやヘルメット、ベースなどを持参しており、最後はそれで相手を滅多打ちにしての反則負けがお約束。

「こういうの、野球に対して失礼じゃないかなぁ」

野球好きの千種などは釈然とせぬが、それがアメリカ風、というかIWWF風だというなら仕方はない。

「それを言うなら、覆面つけてる時点で野球と関係ないけどね……」

とはいうものの、なんだかんだでこの極悪ベースボールユニットは人気をはくしている。
そこはキャラ設定というより、めぐみと千種の技量のたまものであろう。
めぐみの卓越した飛び技、千種の切れ味するどいスープレックス(伝家の宝刀バックドロップは危険過ぎるとされ、ビッグマッチ以外では使用を禁止されたが)は、目の肥えたIWWFユニバース(ファン)すら魅了するに足るものであった。

「オフィスはそろそろ、ユーたちをフェイスターン(善玉転向)させようかと考えてるみたいね」

そう告げたのは《ザ・USA》。
日本語の堪能な覆面レスラーで、現在は故障のためもっぱらマネージャー役で立ち回っている。

「でもそれって、英語が出来ないとダメなんじゃないですか?」

IWWFではリング上やバックステージでのスキット(小芝居)も重要な要素ゆえ、英語力のないレスラーが出世するのは容易ではない。
その点、ベイスターズはヒールユニットであり、ザ・USAがマイクで仕切り、サイトーとダイマジンが試合で大暴れ……という仕様だったから、さほど問題はなかった。
が、ベビーフェイスとなったら、なかなかそうもいくまい。

「ちょっとやそっと英会話が出来る、ってくらいじゃダメみたいだしね……」

マイクパフォーマンスといえど、ヘタな映画やドラマよりも技量が求められる。
それもライブならば、何度もやり直すわけにもいかないときている。
付け焼刃ではお話にならないわけだ。

「でも、せっかく来た以上、トップに立ちたいよねっ」
「……あたしには無理よ。千種みたいに、うまくアピール出来ないし」
「え~? そんなことないと思うけどなぁ。めぐみだって、やれば出来るって」
「無理だってば。あたし、日本語のマイクだってうまく出来ないのに……」

などと言っている武藤めぐみが、のちに北米で怪奇派レスラーとして大ブレイクを果たそうとは、この時点では知りようもないことである。

「フムン。ま、USAのリングはIWWFだけじゃないし、他所を回ってみるのもいいかもねー」
「いいんですか? IWWFの人がそんなこと言って」
「USAは良くも悪くもドライだからねー。チャンスは誰かから与えて貰うものじゃなくて、自分で探して掴み取るものよ」
「…………」
「あるいは、気に入った団体がないのなら……自分たちで作っちゃう、って手もあるけど」
「そ、それは流石に……」
「そうかな? 今度のNJWPの遠征……ただのツアーにしては気合が入りすぎのようだけれど」
「…………」

新日本女子プロレスの“世界構想”の一つ……
それが北米横断ツアー【NJWP-USA】である。
現時点ではそれは、あくまで遠征に過ぎぬとされているけれど、

(新女のアメリカ支部を旗揚げしようということ……?)

そんな噂も、聞かないではない。
北米を拠点とする団体にとっては、看過出来ぬ事態であった。
それを自分たちにとって脅威と見なすか、ビジネスチャンスと見なすかは、団体によりけりであろう。
さしあたって、新女と提携しているIWWFは協力の構えだが、

(【WWCA】が突然ワールドに付いたのは、この件が一因かも知れない……)

北米ではIWWFに次ぐ勢力を持つWWCA。
往時の勢いはないとはいえ、まだまだ侮れぬ力を残している。
これまで新女と提携関係にあったが、つい先日、契約を延長せずに、日本の【ワールド女子プロレス】と手を結んだ。
ワールドはかつては新女と並び立つメジャー団体であったが、昨今は衰退覆い難く、いちローカル団体の一つとなっている。
あえてそこと提携したのは、それだけ新女の進出を脅威と感じたがゆえであろうか。

(海外に目をやっている間に、足元をすくわれないといいけど。……)

そんな心配も、海外に出て視野が広がったためであろうか。

ともあれ、何事もなしとはいかないようであった。
などと思案しているうちに、彼女たちの入場テーマが流れてきた。

「さァ、今日も行ってみようか、ベースボール・ガールズッッ!!」
「サーー・イエッサーーーッ、ボス!!」
「……あんたのノリの良さ、時々羨ましいわ」

『大ブーイングに迎えられて、“ブラック★ベースターズ”が入場です! あぁっ、客席にサインボールを投げ込んでいる! レスリングファンをベースボールファンに洗脳しようという、恐るべき悪の戦略~~~!!』

極悪ベースボール・スター軍団、『ブラック★ベースターズ』……
その活躍は、まだまだこれからであった。
(ちなみに千種は《サイ・トー》、めぐみは《ダイマ・ジン》というリングネームで活動しているが、それは本編にはさして関係がない)

 ▼ 日本 東京都某所 新日本女子プロレス道場

光が強ければ強いほど、影もまた濃くなるという。
華やかなスポットライトを浴びる者がいれば、そうでない者もまたいるのが世の常である。
所属レスラーの多い新女においては、その傾向はより一層、強い。

地味なジョバー(引き立て役)ですら、その競争率は極めて高い。
他団体ならばメインイベンターも務まるであろう人材でも、リングに上がることすら出来ぬことすらあるのだ。

《斉藤 彰子》などは、その典型であろう。
元・空手王者の肩書きをもってプロレス入りした彼女も、現在では一介の中堅レスラー。
なまじプロレスに馴染んだためか、打撃以外に売りのない、パッとしない地味選手という位置。
いまやカードを組まれることもまれだが、他団体への流出を嫌ってか、リリース(解雇)はされていない。
早い話が、飼い殺し状態である。

(私は、こんなものではない……っ)

そんな忸怩たる思いはある。
が、いったん根を下ろしてしまった状態から再び飛び出すのは、容易なことではない。
この時期の斉藤が精彩を欠いていたのは、まぎれもない事実であったろう。
そんな彼女を横目に見つつ、

(あぁはなりたくないな)

と思っていた《越後 しのぶ》。
しかし気づけば、彼女も似たような境遇に落ち着きつつあるのだった。
斉藤と異なるのは、寮長として若手を仕切っていたり、コーチとしての腕も買われているという点で、それはそれでやりがいのあることだった。
が、いちレスラーとしては不遇な立場には間違いない。

会社からは、イメージチェンジとしてヒールターン(悪役転向)を奨められたこともあるが、

――あんな茶番がやれるものか。

と、歯牙にもかけなかった。

(……いや、違う)

他者には強がりを言えても、己を偽ることは出来ない。

(私に、つとまるはずがない)

そう感じている、というのが正しい。
長年リングに上がっていれば、ヒールという立場の難しさは否応なく分かる。
インテリジェンスがなければ、ヒールなど出来るものではないのだ。
彼女は己の器用さ加減を知っていた。
ただ暴れるだけなら、誰にでも出来る。
だがヒールは客をヒートさせながらも、嫌悪感を抱かせてはならぬ。
興奮させても、拒絶させ、客足を遠ざけてはならない。
この頃合を見極めるのは、ただならないことである。
それが出来るのは、よほどの利口者であるか、よほどに――
プロレスに真摯に打ち込んでいる者、だけであろう。

◇◆◇ 2 ◇◆◇

にわかに騒がしい新女道場。
ひとつには、アメリカ遠征のメンバーが発表されたこともある。
メインイベンター級の選手はともかく、中堅以下の選手たちにとっては、発表まではやきもきする期間であった。
そして発表されたメンバーは、おおむね予想にたがわぬものであったが、いくらかは『あるべき名』がなかったり、その逆もまだしかり。
前者の代表としては、《パンサー理沙子》が挙げられよう。
その知名度は海外でも相当なものであり、本来なら外れるはずのない名であった。
が、今は何かと忙しい体、やむをえないのかも知れぬ。
さて、しからば後者――『あるはずのない名』も、いくつかはある。
その筆頭は、やはり
〈高崎 日向〉
であろう。

何しろ、いまだデビューさえしていないのである。
されば単なる雑用係、荷物持ち? いやいや……

「おーやおや。海外デビューが決定のミラクル新星さんが美沙のような取るに足らぬ庶民に何か御用なのですか何なのですか?」

相部屋の先輩《天神 美沙》の物言いは、けっして的外れとはいえまい。

でも、もう――

(……逃げたりはしない)

そう覚悟するほかはなかった。

(あんな、大見得切っちゃ……帰れっこないもん)

 ▼ 日本 東京都 日本武闘館バックステージ(回想)

先日のエキシビジョン戦の直後……
疲労困憊で控え室に戻った日向を出迎えたのは、いつになく厳しい母の顔だった。
てっきり、ねぎらってくれるものと思っていたのに。

「全然、ダメだったわねぇ~。あんた、道場で何やってたの?」
「…………っ」
「そんなんじゃ、何年やっても永遠の若手どまりね~。あ、それはそれでオイシイかもだけど」

いくら何でも、過酷すぎる物言いではあったろう。
なおも容赦なくダメ出しされた日向がトサカにきて、

――別に、プロレスが好きだからやってるわけじゃない。
――たまたま、一番向いてそうだったからやってるだけ。
――でも一度始めた以上は、私はトップを取るまではやめない。
――母さんと違って、途中で投げ出したりなんかしない。

などと、啖呵を切ってしまったのも是非はない。
娘の宣言を聞き終えた母は――自分の出番が迫っていたこともあるが――無言で控え室を去った。
以来、何の連絡もよこさない。

(……どうせ、できっこないって思ってるんだっ)

そんな母への反発心が、彼女の心の炎に薪をくべていたことは否定できない。
母の真意を彼女が知ることになるのは、もっとずっと後のことである。

 ▼ 日本 東京都某所 新日本女子プロレス道場

(……それにしても)

エキシビジョンといえば、その相手となった
〈鏑木 かがり〉
は、今や数少ない同期であり、従来はべつだん何の障碍もなかったのだけれど、

(……嫌われてる気がする)

あの日以来、明らかに敵意を抱かれている気がしてならない。
ラフファイトを仕掛けられた側の日向がそういう気持ちを抱くなら、まだ分かるけれど。

「毛も生え揃わねェヒヨッコが、会社(ひと)のお銭(あし)でメリケン旅行たァ、とんだ気楽な御身分で――」
「…………っ!!」

ある日浴びせられたそれはもう、皮肉というより、喧嘩売りの口上そのものであろう。
たまたま《辻 香澄》らが居合わせなければ、大立ち回りになっていたかも知れぬ。

「あんなこと言うようなタイプじゃないんだけどねぇ」

とは、《小縞 聡美》の鏑木評である。
彼女は鏑木とは相部屋であるから、少なからずひととなりは分かっているのであろう。

「まぁ、同期だもん。ライバル心があるのは仕方ないよ」
「………………」

ライバル――ライバルなのだろうか。

さて、捨てる神あれば――というのではないが、新しい関係もある。

「高崎! ちょっとつきあってよ」
「はっ! はい……っ」

とスパーリングを誘ってきたのは、ジュニア王者の《菊池 理宇》であった。
菊池は辻よりはチト上背があるが、それでも日向よりはだいぶ小柄である。
にもかかわらず、リング上では手も足も出ない。
パワー、テクニック、スピード……いずれもまるで段違いであった。
しかしそれも、中・軽量級では国内最強とうたわれる――彼女に比肩しうるのは東女の《ソニックキャット》のみかも知れない――菊池理宇であれば、是非もなかろう。

菊池のスパーリング指名は、しかしその日だけでなく、連日続いた。
実質、菊池のスパーリングパートナーに選ばれたに等しい。
稽古としては願ってもないことであるけれども、

「う~、理宇せんぱい、ひなっちとばっかり! ずるい~~」

などと、ジュニアの若手選手《榎本 綾》などからやっかまれるのは道理であった。
これ以上、周囲から浮くのは……と案じた日向は、ひそかに菊池に指名せぬよう頼んだ。

「ふ~ん。まぁ、無理強いはしないけどね」

気を悪くしたふうもなく言いながらも、

「でもさ、強くなりたいんでしょ? それとも、そんな気はないの?」
「……っ、それは……」

そんなのは、決まっていた。

「ずいぶん理宇に可愛がられてるみたいやねぇ~?」

あるとき、そんな風に近づいてきたのは《藤島 瞳》。
菊池とは同期のアイドルレスラーで、道場より歌や踊りのスタジオ通いが多いほど。

「鍛えるのはええけど、あんまり筋肉つけたらあかんよ」
「はっ、はぁ……でも……」
「誰がゴッツイ筋肉ダルマみたいな女子レスラー観たいと思う? そんなんは、どっかのボンバーさんみたいなタイプにまかしといたらええんよ。うちらみたいなキレイドコロは、よう考えんとねぇ」
「は、はぁ……」
「おい藤島ァ。久しぶりにチョイと揉んでやろうか?」と、これはくだんのボンバー氏。
「おお、怖っ。聞こえとるし。ま、あんたももうじきデビューなんやし、先のことも考えとかんとねぇ」
「瞳、若いコをたぶらかすのはやめなよ」
「ぶ~、そんなん違いますぅ~~~」
「………………」

確かに、デビューの時期は迫っているらしい。
が、その前に乗り越えねばならぬ難関があった。

大方の女子プロレス団体においては、入団テストとは別に『プロテスト』が存在する。
これに合格した者だけが、ようやくただの『練習生』から『プロレスラー』に立場が変わるわけだ。
新女の場合、プロテストの内容はスパーリングのみ。
基礎的な運動能力を試す団体もあるが、新女一流のハードなトレーニングにここまで耐えて来た時点で、もはやその点は審査無用と判断されるのであろう。

流石に緊張しないでもなかったが、日向は格別の波乱もなく、合格を勝ち取った。

ところで、このプロテスト中には椿事が起きている。
テストが終わった直後、突然道場へと乱入者が現れたのだ。
もっともこれは名もない格闘家とか、押し売り練習生といった類ではない。

「――ミミさん、お久しぶり」

気さくに微笑んで見せたのは、【JWI】の《南 利美》。
かつて新女に属していたが離脱、今や国内トップ選手へ上り詰めたグラップラーである。

「………………」

余裕しゃくしゃくの南に対し、その横で顔を強張らせているのは、彼女の付け人であろうか。

「あら。……元気そうね、利美ちゃん。変わった所で会うわね」

悠揚迫らぬ風情で返す吉原だが、もとよりその目は笑っていない。

「何か御用かしら?」
「例の『挑戦者決定戦』の返事、詳しく聞かせて貰いたくてね。……祐希子は?」
「チャンピオンなら、もう太平洋の上でしょうね」
「あら、残念。……」

大げさに首をすくめてみせる。

「ま、せっかく里帰りしてきたんだし、ちょっと稽古をつけて貰おうかしら」

その後、南は名乗りを上げた《斉藤 彰子》に対して付け人らしき女性(〈水上 美雨〉)を立ち合わせた。
これを破った斉藤だが、南には一瞬の早業であえなく仕留められた。
かつて空手家時代の斉藤が道場破りを仕掛けてきた時、南が迎え撃って不覚を取ったことがある。
さしづめ、数年来の意趣返しといったところ。
かくして南は、『出稽古』を済ませて立ち去った。
まことに、『新女の血』は濃すぎるというほかない。

 ▼ 日本 東京都 有明スポーツアリーナ

さて、月日は容赦なく過ぎる。
初のアメリカ横断ツアーを前に、新女はロイヤルランブル戦
「紫陽花~Hydrangea -Angel Rumble-」
をおこなった。
会場は2万人もの観客を集める
『有明スポーツアリーナ』
であり、他団体なら年に一度のビッグマッチという規模。
が、新女にとっては月イチのPPV放送用(ペイ・パー・ビュー、有料放送)の一つである。
新女の人気思うべし。
メインは当然、20人以上の選手が参加するロイヤルランブル戦(時間差入場制のバトルロイヤル)だが、その直前――さしづめセミファイナルに組まれたのが、

『高崎日向デビュー戦』

であった。

新人のデビュー戦といったら、大抵は第一試合などの前座であることを考えれば、破格という他はない。
そのカードも、やはり特別と言わねばならないだろう。

◆◆ 高崎日向デビュー戦 ◆◆

 〈高崎 日向〉 & 《ラッキー内田》

 VS

 《菊池 理宇》 & 《藤島 瞳》


「…………!」

カードを知らされた時、日向は思わず絶句した。
それも無理はなかろう。
パートナーの内田は、現・タッグ王者であり、ヘビー級タイトルのトップコンテンダー(挑戦者候補)の一角である。
対戦相手にしても、ジュニア王者の菊池はもとより、アイドルレスラーとして絶大な支持を受けている――そのレスリング技術も、決して侮れるものではない――藤島。
いささか度が過ぎるのではないか、と思えるほどの売り出し具合であった。

「よくもこんな『子守り』を引き受けたもんだなァ」

カード発表後、内田の相棒《マッキー上戸》は呆れたように感心したように言ったものである。

「仕事よ、仕事。それに、あの子とは縁もあるしね」

入団テストの際、日向のスパーリング相手をつとめたのが他ならぬ内田であった。

「会社は『金の卵』として大事にしたいみたいだし……だったら、一肌脱ぐくらいはね」
「ふぅん……」

ガラにもなく殊勝だな……と思った上戸であったが、くだんの試合後のランブル戦において、最後の最後になって内田の入場曲が流れてきた時には、

「……そういうことかよっっ!」

と合点し、見事優勝をかっさらい、タイトル挑戦権を獲得した彼女の深謀に舌を巻いたことであった。

閑話休題。
さて試合の方はといえば、さすがはタッグ名人の内田、アップアップ状態の日向を巧みに引き回し、きっちり試合を成立させて見せた。
最後は藤島の『不知火・雅』に沈んだ日向だが、まずは合格点のデビュー戦だったと言えよう。

 ×日向 VS 藤島○
 (14分09秒:不知火・雅→体固め)


試合後、日向の健闘を称えた藤島はさっそく、彼女を己のアイドルユニット『ハニー☆トラップ』へ勧誘した。
もっとも、ヘロヘロの日向は返事も出来ず、この件はひとまず保留となったのであったけれど。


◇◆◇ 3 ◇◆◇

 ▼ アメリカ ミズーリ州 LWWジム

さてその後、新女本隊は北米横断ツアー【NJWP-USA】へ出発。
全米各地を転戦していった。

そんな中、ここミズーリ州にあるローカル団体・【LWW】の道場では、レスリングキャンプが開催されている。
北米のみならず世界中から集まったレスラーや候補生が汗を流し、そのアピール次第では、IWWFを始めとするリングに上がることが出来るのだ。
IWWFはもとより他団体からもコーチやエージェントが訪れ、金の卵を物色している。
そのコーチ陣の中に、アメリカ横断ツアーから一時離脱した《ミミ吉原》の姿がある。
人材の確保はいかなる時も欠かせぬ要素であり、まして、

(海外進出を考えるなら、なおのことね)

【NJWP-USA】を団体として起こすというのなら、自前の選手を揃えねばなるまい。
吉原からすると、現時点での海外進出・団体旗揚げは、
――時期尚早
としか思えないが、会社の方針には最大限従うつもりである。
従えないというなら、離れる他はない。
不満や疑問はあれど、組織に属するからには、そこで最善のパフォーマンスを尽くすのが、吉原のスタイルというべきものであった。

そんな吉原の視線の先に、日本人レスラーの姿がある。
他でもない、先日デビューを果たしたばかりの、高崎日向その人。
デビューしたとはいえ、まだまだ素人に毛が生えた程度に過ぎない。
実戦経験を積むのも重要だが、違った環境でみっちりと鍛えてみたい――という気持ちから、吉原のキャンプへ同行を願ったのである。

他の選手に混じるとやや小柄ではあるが、動きのキレや柔軟性は負けていない。
英語は出来ぬとはいえ、なに、そこはプロレスは肉体言語。
共に汗を流すことで、次第に周囲と打ち解けていくことができた。
言ってみれば商売敵たちとはいえ、目標を同じくするライバル同士。
最初は

「な、ナイススープレックス!」

くらいしか言えなかったが、次第に意思の疎通が出来るようになっていった。
日本と違い、何も考えずにひたすらレスラーの卵たちとトレーニングに励み、切磋琢磨できるひとときは、日向にとって、久々に無心になれた時間であったろう。

「居心地がいいなら、ここに置いていってあげましょうか?」

という吉原の言葉は、果たして冗談であったか、どうか。

さて、ツアー最終戦の行なわれるニューヨークへ向かうため、吉原と共に道場を離れる日がやってきた。
挨拶に訪れた日向に歩み寄り、握手を求めるレスラーや練習生たち
その中でも、ひときわ固い握手とハグを交わした女性が一人。
恵まれた肉体を持ちながらも、日夜辛そうに練習する姿が印象的だった彼女。
しかし日向がスパーリングの相手だと、なまじろくに会話が出来ないのが功を奏したか、心置きなくレスリングに熱中できたと見える。
のちに知った所では、彼女もまた大きな期待をかけられ、それに応えようと無理を重ねていたらしい。
日向とは、似た境遇でもあったわけだ。
いつの日か、リングの上での再会を誓い、2人は別れた。
彼女の名は、《ジェナ・メガライト》。
のちに『スープレックス・モンスター』と称される次代の大物――その若き日の姿であった。

 ▼ アメリカ ニューヨーク州 マジソンスクエアガーデン

【NJWP-USA】のアメリカ横断ツアー、最終戦。
その会場は、ニューヨーク、マジソンスクエアガーデン――
アメリカの、いや世界の格闘技の殿堂ともいうべき聖地中の聖地である。
日本人でこのリングに上がれたのは、ごく一握りであろう。
もとより、彼女の父母もここには上がっていない。
(のちに、記念撮影した写真を送ったら、父はひどく羨ましがっていたものだった)

流石にと言うべきか、日向のカードは正式には組まれていなかった。
が、ダークマッチでリングに上がるチャンスを与えられた。
対戦相手は《エレナ・ライアン》、IWWFの若手ファイターである。
この大会は実質IWWFとの合同興行であった。

「先頭バッターなんだから、塁に出てねっ」
「はっ、はい……?」

独特の言い回しで激励したのは、IWWFに遠征中の結城千種である。

「相手はキャリアは浅いけど、打撃にキレがあるわ。気をつけなさい」
「あ、ありがとうございます……っ」

真っ当なアドバイスをしたのは武藤めぐみの方。

「おやおや、ちょっとは先輩面がサマになってきたみたいだなァ」

と結城らをからかったのはボンバー来島。

「良かったですね、来島さん。日本に残ってたら、酷い目に遭ってたんじゃないですか」

さらっと失礼なことを言う武藤である。

「はぁ? ……あぁ、利美の件か。ったく、アイツらはホント人騒がせだよなぁ」

コケにされて黙っているほど、新女は甘くはない。
いずれ、報復の時が訪れよう。
その時は、自分も起たなければいけないのかも知れない……と思う日向であった。

「あぁ、そういや、あのキズッ面……優勝したんだとさ」
「……っ」

キズッ面……鏑木かがり。
【ワールド女子プロレス】で開催された『ニューフェイスカップトーナメント』なる新人選手によるトーナメント戦に出場、優勝してみせたというのだ。
日向も出場したい気持ちはあったのだが、アメリカ遠征と日程がかぶっていたこともあり、断念したのだった。

「ま、ヨソのへなちょこどもに勝った所で大した自慢にゃならんが――」

会社のプッシュではなく、自分の手で掴み取った『成果』。
その価値は、決して、低いものではない。

「うかうかしてられないってことさ」

意味深に笑ってみせる来島。
言われずとも、日向にとっても自明のことであった……

さて、ライアンとの一戦。
日向は終始攻勢に回り、スリーパーでさんざ絞め上げた後、最後はジャーマンスープレックス一閃!
見事、シングル初勝利を掴み取った。
これも、キャンプで鍛えた成果であったろう。

 ○日向 VS ライアン×
 (7分59秒:ジャーマンスープレックス)


「初勝利、おめでとう」
「あ……っ!?」

控え室で日向を出迎えたのは、思わぬ顔であった。
遠征には帯同しなかった《パンサー理沙子》である。

「ど、どうして、ここに……?」
「フフッ。色々とね」
「っ、あ、あの、私――」

単身アメリカに渡ったと聞いて、気にしてはいたのだけれど。

「ごめんなさい、そろそろ出番だから、行ってくるわ。また後でね」
「え、あ……」

スーツ姿のまま、バックステージを出る理沙子。
会場内に彼女のテーマ曲が鳴り響くと、場内からは大歓声があがった。
流石に女帝、ジャパニーズレジェンドの名は伊達ではないという所であろうか。
さてリングに上がった理沙子は、流暢な英語で上品に挨拶してみせていたが、一転、

『USA ×UCKS!!』

というような罵倒を始めて客席を煽り、大ブーイングを招いてみせた。
これに呼応して日本人選手がリングに上がり、気炎を上げる。
更にそこへIWWF勢が現れ、何やら舌戦を展開、大乱闘に展開していった。

「え、ええっ? 何、これ……??」

モニターを見ながら、目を白黒させる日向。
いったい、何が起きているのか?

「つまりは、こういうコト」

と紐解きをしてくれたのは、マネージャー役の《ザ・USA》である。

「IWWFのマット上で、新女軍団――すなわち【NJWP-USA】派閥を作って、IWWF軍と対立ストーリーを展開しようってワケ」
「は……ぁ」

唖然とする日向。

「じゃあ、あれは全部、お芝居……?」
「もちろんストーリーに乗っ取った展開だけど……半ば本気だよ。ジャパン軍団の人気が出れば、それだけ他の選手の食い扶持が減るわけだからね」
「はぁぁ…………」

初勝利の余韻もどこへやら、頭がクラクラしてくる日向であった。

――もっともこの日、彼女にとって最大のインパクトを与えたのは、メインイベント。

『“Japaneeeese Goddess!!” Mighty-Yukiko!!』

――――OHHHHHHHHHHHHHHH!!!!

騒然となっていた場内が、一斉に沸き返る――

花道に立ち、腕を突き上げるだけで、地鳴りさながらの歓声を引き起こす。

――“炎の女帝”《マイティ祐希子》。

(……っ、やっぱり……凄い……っ)

その肉体、その存在のみで、言葉の通じぬ人々をすら熱狂させ総立ちにさせる、この力――
今の日向にとっては、目もくらむような高みにある、その姿。
果たしていつか、あの域に届くことがあるのだろうか……?

目の回るような事態は、それで終わりではなかった。
ただでさえ、長い遠征から帰国してみると、新女を取り巻く情勢は一変している。

八島の離脱と、ヒール軍団『夜叉紅蓮』の壊滅。
それに代わる革命軍団『ジャッジメント・セブン』の台頭。
そして、〈フランケン鏑木〉――鏑木かがりの出世。

中でも、日向にとって最大の衝撃は……

(理沙子さん……!?)

パンサー理沙子が、新女からの『卒業』を宣言したことであったろう。
【Panther Gym】――それが、彼女の新たなる所属先。

「――ここで若手を育てて、新女に恩返しをしたいと思います」

記者会見で話す理沙子の表情には、さまざまな想いが交錯しているように思えてならない。
彼女は否定したが、新女の選手が追従し“新団体旗揚げ”に向かうという噂には、真実味がある。

またもや大量離脱・分裂劇が繰り広げられるのか?
新女は不穏なスキャンダルの火種を抱えたまま、新たな局面に向かいつつあった……

2011年12月09日

『天使轟臨』 シャイニー日向 リアクション03

「入ってくれるなら嬉しいけど、ホント、無理しなくていいよ。他の小さい団体の方が、気楽にやれるかも知れないしね」

香澄の言葉を受けて日向は考える。
なぜ自分が合格したのかはわからない。あの乱入してきた娘はもちろん、他のテスト生と比べても取り立てていいところがあったとは我ながら思えない。
だとしたら、やっぱり自分の持ってる<<人脈>>、いうなればコネが大きく作用した結果なのかもしれない。
そんなアンフェアな結果、やはり辞退するべきなんだろうか。

でも…。
ここで逃げていいの?
新女に入ろうが入るまいが、どうやったって両親の名前はついてくる。
両親のことを出されるたびに逃げていくの? これからずっと?
そんなのはまっぴらごめんだ。
逃げられないのなら、立ち向かってやる。
そして立ち向かうのならば、新女という自分と最も関わりの深い団体で挑むべきじゃないだろうか。

「ありがとう、香澄ちゃん。でも、私、逃げないよ。新女に入る」
「ん、そっか。歓迎するよ。ようこそ、新女へ」
「うん、でもその前にひとつだけ確かめたいことがあるんだ」

あの人に、確かめなくてはいけない…。

◇◆◇ 0 ◇◆◇

西暦20X1年4月――

日本の女子プロレス界は、新たなうねりの中に飲み込まれつつあった。
――それは自然の流れ?
――あるいは何者かの意志?

そんな大きな渦とは関係なく……
それぞれの想いを胸に、それぞれのやりかたでプロレス界という荒波に飛び込んだ少女たち。
彼女たちの行方はいかに――

◇◆◇ 1 ◇◆◇

国内最大の女子プロレス団体【新日本女子プロレス】が都内に構える自社ビル、その一室――

「相変わらず、面白い方ね。埼玉のお嬢様は」

微笑しながら、目を通していたプロレス雑誌をテーブルに置いたのは、優美な雰囲気をたたえたスーツ姿の女性である。

「笑い事じゃありませんよ」

対照的に、雄偉な体格でラフな格好の女性が、これは苦笑いを浮かべる。

「あら、ご機嫌斜めなの? 自分が招待されなかったからって」
「まさか。こんなの、俺のガラじゃありませんし」
「ご謙遜ね。天下のミス・ビッグバンが」
「やめて下さいよ。背中がかゆくなる」

ミス・ビッグバンこと《ボンバー来島》。
新日本女子プロレスを支えるスター選手の一人である。
国内有数のパワーファイターであり、新女のブランドの一つ“Wrestlers”ではトップを張っている。
雑誌の見出しを飾っているのは、

 『賞金“市”兆円!! 空前のトーナメント開催』

という派手な文句である。

(……南のしかめっ面が目に浮かぶぜ)

来島は、昔馴染みの顔を思い出していた。
ライバル団体【JWI】がぶち上げた“一兆円トーナメント構想”。
各プロレス団体のエース選手に招待状を(一方的に)送りつけ、優勝を争わせようというのだ。
その賞金が一兆円だと言うのだが……

「それがあくまで“副賞”というのがふるっているわね」
「……ま、アイツらしいですけど」

トーナメント優勝者に与えられるのは、正確には
“《ビューティ市ヶ谷》への挑戦権”
であり、一兆円はその副賞に過ぎない、というのだ。
よくよく人を食った話といわねばならない。

「なんなら、復帰してお灸をすえてやったらどうです」
「ふふふ、まさか」

穏やかな笑みをたやさぬこの女性、一見は良家の令嬢としか見えぬが、かつては来島や市ヶ谷としのぎを削ったパワーレスラー、《伊集院 光》。
今は一線を退き、伊集院グループの一翼を担いつつ、新女の相談役として参画している。

「祐希子さんはどうするのかしら」
「どうもこうも、会社が許さないでしょうに?」

JWIが(というか市ヶ谷が)新女代表として指名してきたのは《マイティ祐希子》。
実力・人気とも隔絶した、新女の……いや、日本プロレス界の絶対的なエースである。
不倶戴天の宿敵同士である祐希子と市ヶ谷だが、今となっては、そのリング上での再会は容易ではなかろう。

「まぁ、そうでしょうね。じゃ、黙殺するということ?」
「それはないでしょう。売られた喧嘩は買うってのが、新女イズムってヤツですから」

祐希子は出さぬが、他の実力者を派遣する、と発表することは大いにありうる。
それをJWIが承諾するかどうかは、向こうの勝手だ。

「……それより、こっちの方がよっぽど厄介なんじゃないですかね」

と来島が指したのは、スポーツ新聞の裏面に躍る見出し――

 『反新女同盟結成!? 東女が図る女子プロ界下克上!!』

【東京女子プロレス】が提案し、【WARS】や【ワールド女子プロレス】らが賛意を示していると言われる、女子プロレス界における統一コミッション設立計画……通称【GPWWA】構想。

「……東京女子さんも、相変わらず食えないわね」
「ストレートじゃないだけに、やりづらいっすね」

プロレス界全体を統括するコミッションの設立……
それだけ聞けば、なかなか結構な話に聞こえる。
しかし、新女は独自にコミッショナーを認定しており、東女の提案はそれを無視したものである。
“反新女同盟”……という物言いも、まんざら的外れとは言えぬであろう。
人気面では新女に次ぐといっていい【東京女子プロレス】。
今はまだ大きな差があるが、他団体との連携を強めていけば、いずれは新女を脅かす侮れない勢力となりうるかも知れぬ。
会社は何か手を打つのであろうか?

「さぁ、どうかしらね。私の所には、何も」
(……どうだか)

伊集院のたおやかな笑みに隠された真意は、来島の知る所ではない。

「こちらが手を下さなくても、勝手に倒れてしまうかも知れないものね。【X★ドリーム】のように」
「ありましたねぇ、そんなのも」

【X★ドリーム】(エックス・ドリーム)はかつて存在したプロレス団体。
いや厳密に言えば、イベント名と言うべきであろうか。
自前の道場や選手を抱えず、フリーランスを中心に興行を行い、従来のプロレスの枠を超え、いわゆるエクストリームスポーツの一種として受け容れられ、過激なファイトスタイルで一世を風靡した。
マット界からは異端視されつつも、その勢いはただならぬものがあった……が、2年ともたず、分裂と離脱の末に消滅した。
当然参戦選手たちはバラバラになったが、その残党が何とかという団体を旗揚げしたとかしないとか。

(自然消滅だったかどうか)

かの団体を脅威とみなした新女フロントが、手を打ったことは大いに考えられる。
X★ドリームのトップとして君臨していた《八島 静香》が、団体崩壊後、新女に復帰しているのは、ただの偶然であろうか?

(……ま、いろいろあるってことだな)

来島は深く考えるのをやめた。
百鬼夜行のプロレス界、まして新女となると、これは折り紙つきの伏魔殿である。
そこで生き残る秘訣は、とことん考え尽くして立ち回るか、何も考えず感性のままに動くか、そのいずれかであろう。

(この間の会見も、ひと悶着あったしなァ)

来島は、先日行われた《パンサー理沙子》の15周年記念興行に関する記者会見での出来事を思い出していた……

◇◆◇ 2 ◇◆◇

新女の道場。
多数のレスラーたちが練習に励んでいる。

ひときわ大声を張り上げながら汗を流しているのは、練習生たち。
その中でも、とりわけ動きにキレがある少女がいる。
〈高崎 日向〉。

「いいなぁ、あの子」

練習の合間に、思わずそうつぶやいたのは《菊池 理宇》。
新女のジュニア王者である。

「ははぁん。菊池センパイのおめがねにかないました?」

合いの手を入れたのは《藤島 瞳》。
菊池とは同期だが、実力より人気で身を立てるアイドルレスラーである。

「そんな大した話じゃないけど……練習生の中じゃ、一歩抜けてるかな」
「ははぁ。さすがは理沙子はんの秘蔵っ子って所やんね」
「もう瞳より強いんじゃない?」
「……理宇も言うようになったやないの」

ひいき目抜きに、日向の動きはいい。
両親がレスラーだったというだけあって、天分というのもあるのだろう。

(いい素材だと思うけれど……)

早くも新女一流の荒波に呑まれている姿は、気の毒ではある。

「とりあえず話題性はピカイチやし、うっとこにスカウトしとこっかな~」
「……アイドルってガラじゃないと思うけどなぁ」

《キューティー金井》が率いるアイドルレスラーユニット『みるきぃ★レモン』。
そのライバルユニットとして藤島瞳が立ち上げたのが、『ハニー・トラップ』。
問題は、いまだ藤島以外メンバーが不在ということであろう。

「ま、流石にデビュー前じゃどうもならんし……他所の団体に探しに行ってみよっかな~~」
「…………」

他団体もいい迷惑だな、と菊池理宇は思った。

「……はぁ、ふぅ……っ」

掃除や洗濯などの雑用を終え、ようやく寮の部屋に戻る日向。

「おやおや。期待の超新星のお帰りなのです」

これは同室の先輩である《天神 美沙》。
二段ベッドの上段から見下ろしながら、ジト目を向けている。

「……すみません、遅くなりました」
「別にいいのです。会社からチョー期待されているチョー新星さんに、美沙のような一介の若手ごときがどうこう言える筋合いなど一切合切ありゃしないのです」
「…………」

嫌味ったらしい美沙の言葉を浴びつつ、ベッドに転がり込む。

(あんなことさえ、なければ……)

先日の出来事を思い出す……

《パンサー理沙子》。
押しも押されぬ新女の重鎮である。
日向とは遠縁の親戚であり、昔からの顔なじみであった。
新人入団テストで合格を果たした日向であるが、そこには理沙子の働きかけがあったのではないか? という疑問がぬぐえなかった。

――聞いてみよう。

理沙子に直に確認してみたい……
と思った日向であったが、以前はともかく、スター選手と新弟子の立場では接触もままならない。
しかしある日、ふいに彼女の方から呼び出しがあった。

「頑張っているみたいね」

呼び出された先は、新女オフィスの応接室。
キッチリと一分のスキなくスーツ姿に身を固めた理沙子は、年齢以上に大人びて見えた。

「っ、それより……」

気後れしながらも、理沙子の真意を問う日向。
自分を合格させたのは、縁故だけなのか?

「もちろん、実力を買ったに決まっているじゃない。後は、将来性ね」

と微笑む理沙子。

「………………」

しかし釈然としない日向。

「納得できないのなら、今からでも他所に行ったらどう?」
「……っ」
「元・新女ということなら、それなりにハクはつくかも知れないわよ」
「…………っ、私、やめないよ」

新女でがんばると決めた以上、他所に行くことなど思いもよらぬ。

「……そう」

苦笑を浮かべる理沙子。

「言っておくけれど……苦労は、多いわよ?」
「…………」

無言でうなずく日向。
この先、どんな生き方をしようと、苦労からは逃れられない。
だったら、自分から突き進んでやる。

「さて、それじゃ、行きましょうか」
「……え?」

最初の大きな『苦労』が日向を待ち受けていた――

「………………」

パシャッ! パシャ……パシャパシャ……

無数のフラッシュの洪水の中で、日向は茫然としていた。
パンサー理沙子、デビュー15周年記念興行の記者会見。
理沙子以外にも、新女のスター・ボンバー来島や、太平洋女子のブレード上原など、そうそうたる面々が席を連ねている。
その華々しい席に、なぜかちょこんと同席させられている日向。

(な、なん、で……??)

理沙子や他の選手が大会への意気込みなどを語っているが、てんで耳に入らない。

「――さて、今回の興行のテーマは、パンサー理沙子の過去、そして未来です」

「――未来の象徴として、彼女に参戦してもらうことにしました」

「高崎日向――私の親戚であり、《オリオン高崎》選手と《LUNA》選手の娘です」

「…………っ」

ひときわフラッシュの勢いが強まる。

「彼女には、第0試合でエキジビジョンマッチを闘って貰います」
「な……っ!?」

どさくさにまぎれて、何てことを!
しかしとても、口に出来る雰囲気ではない。

「そして、彼女が未来の象徴だとすれば、過去の象徴として――」
「…………!!!」

「どうも~~~~、元気にしてた、日向?」
「な……ぁ……」

久しぶりに見る母の姿に、絶句する。

「――LUNA選手が、一夜限りのカムバックを果たしてくれることとなりました」
「…………!!!!」

日向が直面する『苦労』は、予想をはるかにに超えたものであった……

◇◆◇ 3 ◇◆◇

(……あの会見以来……)

周囲の選手やスタッフの態度が微妙に違っている。
腫れ物に触るような扱いというか……何かと距離を取ってくる感じが、いたたまれなかった。

辻にも彼女の立場があるので、そうそう頼ってばかりはいられない。

美沙のように嫌味でも言ってくれるのはまだマシな方であって、あの微妙な視線はかなり辛いものがある。

(……浮いているっていえば)

同じ練習生の〈鏑木 かがり〉。
入団テストに乱入して、合格をもぎ取った剛の者。
練習中、時おり目が合うが、言葉を交わすことは滅多にない。

実力はかなりのもののはずの彼女だが、現状ではまともな練習をさせて貰っていなかった。
来る日も来る日も、練習生や若手の『投げられ役』をつとめていた。

それでも不平一つ顔に出さず、黙々と受け身を取り続けている。

彼女も周囲から浮いているが、それは日向のそれとは異質な形である。
もし自分があんな目に合っていたら……
とても、耐え切れたとは思えない。

(あの人から見たら、私なんてアマちゃんなんだろうな……)

そしてむかえた理沙子興行、舞台は日本武闘館――

(…………っ、こんな所で、試合なんて……っ)

デビュー前のド素人に、いきなり超満員1万5千人以上の大観衆の前でリングに上がれなど、無茶もいいところ。

「……っ、日向ちゃん、大丈夫……じゃ、ないよね」

先輩の辻でさえ、これほどの大観衆の前で闘った経験はない。
アドバイスのしようもなかった。

「っ、とにかく、10分一本勝負だし、なんとか頑張って!」
「……う、う……うん……」

「日向~~、調子はどう?」

無遠慮に入ってきたのは、日向の母――今はLUNAと呼ぶべきか――である。

「あ、香澄ちゃん久しぶり~。元気してたぁ?」
「は、はいっ……」
「……か、母さん……っ」
「ン? 何?」
「…………っ」

色々と言いたいことはあるのだが、あり過ぎて言葉にならない。

「どう? 流石に10ン年もブランクあるからヤバいかな~って思ってたけど、結構着られるもんよね~」

ヒラヒラ多めの水着を見せ付けてくる。
確かに、アラフォ……いやアラサーとは思えない、いい体である。

「っ、そ、それより……」
「あ、父さんから伝言。『魂でぶつかれ!』だって。相変わらずボキャ少ないよね~」
「っ、だ、だからぁ」

「……日向」
「……っ」
「嫌なら、やめていいのよ」
「……あ……」
「誰も、貴方に強要しないわ。リングに上がるかどうかは、貴方次第」
「…………」
「リングに上がれば、最悪、死ぬかも知れない。そんな所に、子供を送り出したい親はいないわ」
「……っ」
「でも、子供がそう望むんだったら、そうするしかないじゃない」

しかし、そう望んでいないにも関わらず、仕方なく上がろうなどとしているのであれば……

「足の一本もへし折って、つれて帰るしかないかなぁ~」
「…………っ」

「わ、私、は……っ!」

「…………っ」

高崎日向は、エキジビジョンマッチのリングに立った。
どうやって花道を歩いてきたのかすらおぼろげで、てんで地に足がついていない。
子供の頃はよく足を運んだ武闘館だが、まさかそのリングの上に立つことになろうとは!

「――両者、中央へ」

レフェリーを買って出ているのは理沙子である。

そして、対角線上に相対する対戦相手は――


◆第0試合

 〈高崎 日向〉(新日本女子プロレス)

 VS

 〈鏑木 かがり〉(新日本女子プロレス)


「……あたいみたいな半端者にゃァ、こんな晴れがましい舞台……荷が勝ち過ぎでさァ」

これまたデビュー前の、鏑木かがり。
肝の太い彼女も、いささか緊張の色が濃い。

「………………」

チラリ、と理沙子が日向を見つめる。

「…………っ」

強いまなざしにも目を反らさず、見つめ返す。
ふ、とわずかに理沙子が頬をゆるめた気がした。

「――新人らしい、フェアな試合を期待するわ。ファイトッ!」

理沙子がゴングを要求する。

「く……っ!」

頭が真っ白になるも、もはや本能のみで、日向は突き進んでいった……

……カン、カン、カン……

時間切れ引き分けを告げるゴングに、思わず力が抜ける。

「ハァ、ハァッ……ハァ……」

結局、いいところのないまま、時間切れに終わった。
練習で出来ていたことが、半分……いや、十分の一も出せていなかっただろう。

「とんだしょっぱい三文芝居、申し訳ないこってございやす。もっとも、木戸銭はお返しあたわず、あしからず――」

客を煽りながら引き上げるかがりには、ブーイングが飛んでいる。
新人らしからぬ反則まで繰り出しただけはあった。

一方、四方に引き上げる日向へは観客から温かい拍手が送られる。
もっとも、日向には良く分かっていた。
その拍手は「素人の女の子」に対する「よく頑張ったね」という、いたわりの拍手にすぎないと。

(……っ、絶対、もう一度……っ)

この場所に、帰ってきて見せる。

(だって、私は……)

自ら望んで、このリングに上がったのだ。
誰から強要されたわけでもない。
だからこそ、次は……自分の力で、上がってみせる。

何も出来なかった悔しさを胸に、奮闘を誓う日向だった……

日向とかがりのプレデビュー戦となったこの夜だが、多くの観衆にとって、最大のトピックはメインイベント終了後にあった。
メインで上原と組み、快勝をおさめた理沙子。
彼女が勝ち名乗りを受ける中、ふいに照明が落ちた。
スクリーンに謎のカウントダウンが映し出される。
そして、浮かびあがった文字……

「エピローグ・オブ・パンサー」

騒然とする場内、明るさを取り戻したリングの中央に仁王立ちし、スクリーンを睨みつける理沙子――
マイクを取った彼女は、

「――今夜は、ありがとうございました。私は、どこまでも、全力で駆け抜けます――」

と告げ、そのまま退場した。
その真意が分からぬまま、ざわつきの収まらない場内。

(エピローグ、って……引退……っ!?)

バックステージで試合を観ていた日向らも茫然としたまま、声もない。

これが「新女の魔物」の仕業なのかどうか――
その真実は、いまだ闇の中であった。……

2011年11月04日

『天使轟臨』 シャイニー日向 リアクション02

「え、あんた高校行くの?」
「なんで驚くのよ! 私はプロレスラーになんかならないって言ってるでしょ!」
「まあいいけどね。高校の学費くらいは出してあげるわよ」

そんなやりとりを経て夢の女子高生を目指して受験に挑んだ日向。ところが、受験当日に高熱が出るわ、自動車にはねられるわ、乗ってたバスがバスジャックに合うわ、産気づいた奥さんを助けたりするわで、第一志望はもちろん十分合格圏内だった滑り止めの高校まで不合格!
「あ~らら、どうすんの? 中学浪人はキツイわよ~」
「うるさいわね! わかってるわよ!」
「おとなしくレスラーになったら? 理沙子に頼めば入団テストくらいは受けさせてもらえるわよ」
「絶対プロレスラーになんかならないんだから!」
そんな啖呵を切って(いつものように)家を飛び出した日向。行く当てもなく街を彷徨う。
「ううう、ホントにどうしよう…。やっぱりレスラーになるしかないのかなあ」
実のところ、そこまでレスラーになるのが嫌というわけでもない。ただ、母親への反発と素直になれない性格が邪魔をしていた。
「そうだ。こんなときは香澄ちゃんに相談しよう!」
日向が素直になれる数少ない人物である辻香澄なら何か指針をくれるかもしれない。
日向は携帯を開き香澄に電話した……。

◇◆◇ 0 ◇◆◇

西暦20X1年3月……

空前の盛り上がりを見せる女子プロレス界。
全国的な人気を誇る巨大団体・【新日本女子プロレス】を筆頭に、
サンダー龍子率いる【WARS】、ビューティ市ヶ谷の【JWI】、
ブレード上原が支える【太平洋女子プロレス】、
新興ながら勢いのある【東京女子プロレス】などが覇を競い、他にも小規模団体が乱立している。

そんな混迷と動乱の時代……
若さと情熱に溢れ、恐れを知らぬ少女たちが、新たに四角いジャングルへ飛び込もうとしていた。
いずれマット界に訪れる巨大な嵐の存在を知る由もなく……

◇◆◇ 1 ◇◆◇

日本プロレス界を牛耳る巨大団体・【新日本女子プロレス】!
スター選手、実力者、アイドルレスラーなどが綺羅星のごとく揃う、国内最大のプロレス団体。
テレビ放送は全国ネットで複数放送され、ドーム大会を開催出来るだけの人気を誇る。
練習施設や福利厚生も充実しており、他団体の追随を許さない。
本格派レスリングからデスマッチ、ひょうきんファイトまで多様なスタイルが許容されている。
今やその勢力は、プロレス団体の枠を超えているといっても過言ではない。

この巨大組織の新人入団テストとなると、これはもはや一つのイベントと言える。
すなわち全国の大都市にて《NJWPトライアウトキャラバン》を開催、各地の受験者は実に1000人規模を数える。
その中から、合格者となるとわずか10名に足りないと言うのだから、倍率たるや尋常なものではない。
そんなプロレス界イチの狭き門に挑む、あまたの少女たち――
勝ち残れるのは、異才と強運、そして、人並み外れた行動力が不可欠であった……

《NJWPトライアウトキャラバン・ファイナル》――
このテストは、東京・両国コロシアムで行なわれた。
厳密に言えば、3月のPPV大会
「蒲公英~Dandelion~」
の前夜祭イベントとして、である。
もとより参加出来るのは、全国のトライアウトキャラバンをサバイブしてきた、わずか数十名。
いずれ劣らぬ猛者たちが、最後の椅子を狙い、目をギラつかせている。

「――いやはや。なかなかの見ものですね」
貴賓席に陣取った金髪の女性が、隣に座る日本人女性に笑いかけた。
「さぁ。……少し、ショーアップし過ぎかも知れません」
控えめに答えたこの女性こそ、新女の、いや日本プロレス界の重鎮・《パンサー理沙子》に他ならない。
「まだまだ、おたくらと比べたら、ママゴトみたいなもんでしょうよ」
そう大笑して見せたのは、やはり新女のベテラン・《六角 葉月》である。
「御謙遜を。……うかうかしていたら、世界がNJWPに席巻されてしまいそうです」
(――良く言う)
理沙子は内心眉をひそめた。
このアメリカ人女性は《ミス・スパイク》。
新女と業務提携しているアメリカの老舗団体・【IWWF】のエージェントで、両団体の提携強化のため、新女へ出向してきている。
(……と、いうことになっちゃいるが)
どうもそう単純な人事じゃなさそうだ、と葉月はキナ臭さを感じていた。
(ま、この団体じゃ珍しくもないがね)
巨大団体であるがゆえに、新女は幾度となくスキャンダルに襲われてきた。
選手・スタッフの離脱などは日常茶飯事であり、倒産寸前まで追い込まれたことも一度や二度ではない。
そのたび、それこそ不死身のプロレスラーを体現するがごとく蘇り、現在のような隆盛を誇っている。
が、それすらも、
(……いつまで続くかしらね)
理沙子らの冷徹な目と耳は、遠からず迫りつつある波乱の兆しを感じ取っていた。
(まっ、だからって)
ジタバタしても始まらない。
その時はその時さ、と割り切りが出来ねば、新女ではやっていけないのだ。

「――それではこれより、体力テストを開始いたします」
マイクを取って仕切っているのは《ミミ吉原》。
理沙子ら同様、新女ではベテラン選手であり、十分なキャリアを持つが、ああして現場に出ることを好むタイプである。
「良く働くねェ、泉ちゃんは」
「少しでも間近で見極めたいそうよ」
「なるほどね。自分が鍛える相手だからなぁ」
吉原は選手兼任コーチとして、若手の育成にも力を発揮している。
現在新女リングを支える選手たちのほとんどは、彼女の薫陶を受けているといってよい。
「文字通りプロフェッショナルな方ですね。わが社にスカウトしたいくらいです」
ミス・スパイクの言葉は、あながちお世辞ではあるまい。

◇◆◇ 2 ◇◆◇

〈高崎 日向〉――
父はオリオン高崎(本名・高崎星児)、母はLUNA(本名・高崎月美)というプロレスラーを両親に持つ少女である。
両親によって幼い頃から鍛えられたが、そんな教育方針に反発、プロレス嫌いを公言するようになった。
が、本心ではプロレスを愛しており、自身も薄々自覚してはいるものの、なかなか素直に認められずにきた。
本来は明るく優しい性格なのだが、両親の事、プロレスの事で屈折してしまっている。
父譲りのレスリングの才能と母譲りの俊敏性を備えており、投げ技・飛び技に資質がある。
勉強は苦手で手先は不器用、人見知りするところもあるため、本人の希望とは裏腹に、ぶっちゃけプロレス以外には向いていないと言える。

そして、進路決定の時分……
高校受験に挑んだ彼女だったが、いろいろあって――
全て不合格となってしまった。

途方に暮れた彼女は、親友であり、新女所属のプロレスラーである《辻 香澄》に相談する……

「だったらウチにおいでよ~。今度、両国でテストあるから、そこに出ればいいよ」
「えっ、けど、あれって」
確か、地方予選を突破しないと参加出来ない筈では?
「あ~、大丈夫大丈夫。会社に話通しておくから」
「え、でも、そんな……」
「ボクだって、それくらいの力あるんだよ。へへ」
「だ、だけど、それってちょっと……」
ズルい気がするんだけど。
「いいのいいの。だって、プロレスは5秒まで反則OKでしょ? そういうもんだよ」
「そ、そうかなぁ~……」
裏口入学みたいで、なんだか釈然としない。
「そうそう。もっと面白い手もあるけど、それは流石にオススメしないしね。
 あ、無理矢理合格させたりとかは無理だから。後はひなっちの実力次第だよ!」

(……う~ん、どうしよう……)
せっかく辻に骨折りして貰ったものの……
なんだかフェアじゃない気がして、悶々とする。
迷いに迷った……ものの、結局、受けるだけは受けようと決意した。
(合格したら、その時になって考えればいいや)
そんな気持ちで、気まずい想いを胸に会場入りし、全国から集まった猛者たちと肩を並べる。
周囲の少女たちは同年代でありながら、いずれも一癖も二癖もありそうな面構え。
何だかひどく、自分がここにいるのが、申し訳なく思えてきた。
(……っ、でも、ここまで来て、逃げ出す訳には……)
早くテストが始まって欲しい、と祈るような気持ちでいた時、ようやく吉原によるテストの開始宣言が……

「――ちょいとお待ちいただけますかィ」

「……っっ??」
会場に突然鳴り響いた大音声。

「そのテスト――」

「どうか、あたいにも受けさせてちゃァもらえますめェか」

面妖な口上の主が、姿を見せた――

「ただテストを受けさせてくれるだけで構わねェんです」

小柄ながらも頑健そうな体躯を持つ少女である。
額から斜めに走る傷跡が、異様な迫力を与えている。
彼女はなおも、時代がかった口上を続ける――

――ずらり並んだ娘ッ子が、たったの一人増えるだけのことじゃァありやせんか。
正しい手続きだのと、ケツの穴のちィせェこたァ仰いますな。
もちろんポッと出てきて皆さんと同じ舞台に上がらせろなんてェ、
おこがましいことは言いやせん。
あたいは一段低いあがりがまちで踊らせてもらえりゃそれでいい。
結果がどうあれこの〈鏑木 かがり〉、感謝こそすれ恨みなどいたしやせん。
どうか、伏してお願い申し上げやす――

いやに堂に入った物言いである。
「……あの阿呆」
葉月は頭をかいた。
「貴方の差し金?」
「違う違う……と言いたい所だけど、そうとも言えないか」
「?」
「レスリングの後輩でさ。……岸岡さんとこで鍛えてるとは聞いてたけど」
岸岡とはかつて新女に在籍した中堅レスラー《ヴァーミリオン岸岡》のことである。
新女退団後、新団体GGJ(現在は解散)に参加、いまやトップヒールとして活躍する《ガルム小鳥遊》や《オーガ朝比奈》らを育て上げた。
現在は引退、レスリングスクールで後進を育てていると聞いていたが……
「なるほどね。……正に【GGJ】流のやり方、という所かしら」
かつてGGJ残党の小鳥遊らに試合へ乱入された経験がある理沙子は、苦笑とも微笑ともつかない頃合の笑みを浮かべた。
「ハッハー……流石はNJWP。こんな演出を用意しているとは予想外でした」
「フフッ……一寸先はハプニング、ですね」
「そりゃいいけどさ、どうすんだよ。客も騒ぎ出してるぜ」
「……泉さんが上手くやるでしょう」

「――鏑木さん、でしたね」
マイクを手にした吉原が、動じる色もなく呼びかける。
「貴方のお気持ちは分かりました――が、ルールはルールです。ここにいるテスト生たちは、各地での予選を突破して、やっとここまでたどり着いた人たちばかり」
その中に割って入るというのは、
「ちょっと、虫がいいのではありませんか?」
「――ッ」
思わず顔を伏せたのは、かがり……ではなく、日向である。
自分の事を言われている訳ではないのは、分かっているが。
かがりは顔色一つ変えるでもなく、じっと聞いていたが、こと為らずと見たか、深々と一礼するや、きびすを返す――

「――まぁ待て。お嬢ちゃん」

声が上がったのは、貴賓席である。

「ルールはルールだ。だがな」

遅刻して現れた、もう一人の新女の重鎮――

「あらゆるルール、あらゆる理屈、あらゆる常識ってヤツをブチ超えてみせるのが、プロレスってもんだろうよ――――」

《八島 静香》――新女の“影番”にして、ヒール軍団『夜叉紅蓮(ヤサグレン)』の総帥である。

「――違うかい? 御大」

「…………」

理沙子に視線を向けられ、ミミ吉原は、やれやれ、と言いたげに苦笑して肩をすくめた。
わっ、と固唾を呑んでいた観衆がいちどきに歓声をあげた……

……と、そんな“劇場”の後の、体力テストである。
さしもの歴戦の? テスト生たちも、すっかりペースを崩され、思うような結果を出せずじまい。
しからば日向がどうかといえば、
(……やっちゃった……)
よりによってこんな時に、無性に虫歯が痛み……
からっきしの結果に終わってしまった。
ちなみに、例の鏑木かがりは、ダントツでトップの成績。
どうやら乱入するだけのことはあるらしい。

続く自己アピールタイム……
これは結構、ウケた気がする。

そして、最後のスパーリング。
日向の相手となったのは、タッグチャンピオンである
《ラッキー内田》
であった。

(な、なんでよりによって、トップ級の人と……っ)

もとより勝負になる訳もなく、シャイニング弾で轟沈。
あえなく、眠らされた……

◇◆◇ 3 ◇◆◇

――目が覚めた時、彼女は支度部屋の隅に寝かされていた。

「あっ! ひなっち、おはよっ」
能天気な声をかけてきたのは、もちろん辻である。
「ぇ……あ、あー……うん」
まだ頭がクラクラする……が、痛みはほとんどない。
われながら頑丈さはなかなかのものだった。
「あ、えっと、テスト……はっ?」
「…………」
顔をそむける辻。ということは……
「……っ、だよね……不合格……」
「――な~んちゃって」
ぱっ、と笑みを向けてくる。
「おめでと、ひなっち。合格だよっ」
「え……っ?」
正直、にわかに信じられない。
自己アピール以外、全然ダメだった気がするのに……
「まぁ、ボクも基準は分かんないけど」
たぶん、いろいろな要素が絡んでるんじゃないかな、と辻は肩をすくめた。
「……そっか」
自分の力以外の要素……
両親、理沙子、辻……それらの要因が、絡んでいるのかも知れない。
「――ひょっとして、辞退しようとか、思ってる?」
「ぇ……」
「……無理には奨めないよ。新女はさ、大きすぎて、血が通ってないなって思う時もあるもん」
「…………」
「でも、一度は触れてみないと、何にも分からないだろうから、テストだけでも受けてみたらって思ってたんだけど……ね」
「…………」
「入ってくれるなら嬉しいけど、ホント、無理しなくていいよ。他の小さい団体の方が、気楽にやれるかも知れないしね」

「いやはや。なかなか刺激的なトライアウトでしたわ」
席を立ち、笑みをたたえるミス・スパイク。
「……御期待にお答え出来て幸いです」
理沙子は苦笑した。
「そういえば、いかがでした? 御親戚の方は」
「――良く、ご存じですこと」
「いえいえ。たまたま、小耳に挟んだだけです」
「それなりでした。後のことは、彼女次第でしょう」
「そうですか。……魅力的な少女でしたね」
「…………」

2011年11月02日

『天使轟臨』 シャイニー日向 キャラクター紹介

唐突ですが、レッスルバカサバイバーで行われているレッスルエンジェルスPBeM_EP1『天使轟臨』に参加してます。
PBeMを知らない人のためにザックリと説明すると、メールで行うTRPGみたいなもんですな。GM(ゲームマスター)が状況を提示し、プレイヤーがそれに対する行動を決めて、GMがさらにそれに対するリアクションを返す、ということを繰り返して物語を共同で作っていくゲームです。
参加者は現在25名。プレイヤーに対するリアクションはそれぞれのプレイヤーしか読めないのだけど、私しか読めないのはもったいないし、他のプレイヤーの人で読みたい人もいるだろうし、ということで当ブログでリアクションを随時公開していきたいと思います。
今回はプレイヤーキャラクターとなるウチの娘を紹介します。
リアクションの公開は次回をお待ちください。

名前:高崎 日向(たかさき ひなた)
リングネーム:シャイニー日向
出身地:東京
誕生日:8月23日
年齢:15歳
身長:164cm
3サイズ:82/58/84
一人称:私

素直になれないサンシャインガール。
父はオリオン高崎(本名・高崎星児)、母はLUNA(本名・高崎月美)というリングネームのプロレスラー。母は結婚後引退し日向を生んだ。現在は専業主婦。
両親により幼い頃から鍛えられたが、そんな親の教育方針に反発してプロレス嫌いを公言している。
が、本心ではプロレスを愛しており、自身も薄々自覚してはいるもののなかなか素直に認められずにいる。
本来は明るく優しい性格なのだが、両親のことやプロレスの事で屈折している。
父譲りのレスリングの才能と母譲りの俊敏性を備えており、投げ技・飛び技に資質がある。
勉強は苦手で手先は不器用、人見知りするところもあるため、本人の希望とは裏腹にぶっちゃけプロレス以外向いていない。
両親ともにプロレスラーのため、プロレス界のみならず人脈がある。もちろん本人はそのことを快くは思っていない。
パンサー理沙子は母方の遠い親戚であり、母にとっては新女の後輩でもあったため子供の頃からの付き合い。「理沙子お姉ちゃん」と呼んで慕っている。
辻香澄は家が近所だったこともあり親友。理沙子と並んで日向が素直に心情を話せる数少ない存在。
必殺技はサンライズジャーマンスープレックス(高角度ジャーマンスープレックス)。

「別に私、プロレスなんて好きじゃないし…」
「私は私よ。父さんと母さんは関係無いじゃない」
「もう…! あんまり熱くさせないでよ! 楽しくなっちゃうじゃない!」